アンブリッジローズがよかったです
「ア、アンブリッジローズ様っ」
とアキは叫んだ。
アントンとの間に、青紫のローブを着た小さなおばあさんがいつの間にか挟まっていたのだ。
「え、このば……
この方が?」
とアントンが本物のアンブリッジローズを見下ろす。
「まるで、1000歳を超えているかのようだ……」
とアントンが言ったので、アキはフォローのように言った。
「いやいや。
1000歳には見えませんよ、お若いですよ」
「……そうなのか?
1000歳の人間自体、あまり見ないから基準がわからんが」
確かに、どんな感じが1000歳として正解なのかもわからない。
突然現れたアンブリッジローズはそうして戸惑うアキたちを見上げて文句を言い出した。
「アキ、お前がうろうろするおかげでまた私の求婚者が増えたではないか」
どうやら、アキがアンブリッジローズの名を名乗っているせいで、あの美女は誰だという話になり。
噂が駆け巡って、また求婚者がやって来はじめたというのだ。
「噂というのは曲がりくねるものですね」
とアキは首をひねる。
自分はそんな美女ではないはずだが、と思ったのだが。
もともとあったアンブリッジローズの美女伝説と結びついて、話が膨らんでしまったのだろう。
「もう結婚したって言えばいいじゃないですか」
とアキは言ったのだが、アンブリッジローズは、
「お前たちがいつまでも国に到着しないから、まだ結婚したことになっていないだろうがっ」
と言ってくる。
「もういい。
お前の名前を剥奪する」
ええーっ、というアキに、アンブリッジローズは外回廊の側に植えてあるいろんな種類の薔薇を眺めながら言ってきた。
「大丈夫だ。
美しい薔薇の名前からとってやろう。
私の名も元は薔薇の名だしな」
というので、ちょっとホッとしたとき、アンブリッジローズが黄色とオレンジの混ざった可憐な薔薇を見ながら言った。
「お前の名前は今日から、アパッチだ」
「嫌です」
嫌なのか、と眉をひそめたアンブリッジローズは、今度はピンクのちょっと不思議な感じの薔薇を見ながら、
「ジャポニカでどうだ」
と訊いてくる。
「学習帳みたいなんで嫌です」
学習帳とはなんだ……と呟きながら、アンブリッジローズは、黄色い薔薇を見た。
「イエロー・キルでどうだ」
「殺し屋みたいなんで嫌です」
「いちいちうるさいな、お前は。
城に着いて式を挙げるまでの仮の名だ。
なんでもいいではないか」
いやそもそも、アンブリッジローズも私には仮の名なんですが……と思っていると、もうめんどくさくなったらしいアンブリッジローズが言い切った。
「よし、タイガー・テールにしょう」
赤と白の可愛らしい薔薇を指差し、アンブリッジローズは宣言する。
「お前は今日から、タイガー・テールだ」
ええーっ? とアキは声を上げた。
「待ってくださいっ。
リングネームみたいなんですけどっ。
その名でずっと呼ばれていたら、格闘家になってしまいますっ」
そう反論したが、
「呼ばれたくらいでなるのなら、もともと素質があるんだろうよ」
と横からアントンが冷静に言ってきた。
アンブリッジローズはアキの肩にポンと手を置き、
「よしっ、ゆけっ。
タイガー・テールよっ!」
と言い出した。
「……アンブリッジローズがよかったです」
アンブリッジローズが去ったあと、ラロックを二人でねぎらっていると、従者がやってきて、王からの言葉を伝えてくる。
「王は王子と話が弾まれているようで。
庭を眺めながら、皆様と酒宴でもと言っておられます」
その従者に連れられ、アキたちは庭に造られた白く美しい円柱のガゼボのような場所に行く。
洋風の東屋のようなものだ。
「タイガー・テール様のおなりです」
と従者が王たちにアキの到着を告げる。
「……何故、名前が変わっている」
と王子がこちらを見て呟いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます