なにかが現れました


「基本友人だが、形の上ではお前、俺に仕えていたはずだろうっ」

と王子がラロック中尉にキレていた。


「そうでしたっけね」


 そこはさすがに友人。

 部下とも思えぬ、すっとぼけ方をラロックはする。


「王子、私は今からアンブリッジローズ様の頼みで、王様の衣装を考えるのです。

 邪魔しないでください」


「お前な~っ」


「……お前も苦労するな」

と何故か王子はアントンに同情されていた。




 食事をご馳走になったあと、

「よろしかったら、泊まって行かれるといい」

と王に言われ、アキたちは王宮に泊まることになった。


 王子は王にわれるまま、旅の話などをしていたので、アキはラロックの様子を見に行くことにした。


 自分のせいで、ラロックの用事を増やしてしまったからだ。


 ラロックの部屋に向かうのに外廊下を歩いていると、アントンが追いかけてきた。


「待て、アンブリッジローズ。

 私も行こう」


「え? いや、わざわざそんな申し訳ないです」

と言ったのだが、アントンは、


「いやいや、あのラロックとかいう男。

 どうもお前に気がある気がする。


 ひとりで部屋を訪ねさせてなにかあったら困るからな」

と言ってきた。


 そんな莫迦なとアキは笑う。


 ラロックはどちらかといえば、最初から自分を小馬鹿にしていたような感じだったからだ。


「恋とは突然落ちるもの。

 私がお前を見た瞬間に恋に落ちたようにな」


「……物好きですね」

と言いながら、赤くなると、


「意外に物好きは多いようだぞ」

と誰のことだかアントンは言った。





 美しい庭の藤棚など眺めながら、アキはアントンと話し、歩く。


「ほう。

 お前は本当にアンブリッジローズではないのか。


 異世界とはどんなところだ」


 ちょっと野盗まがいだが、悪い人間ではないと判断したので話したのだ。


 なにより、これ以上、伝説の美女だと思われているのがえがたかったからだ。


「お前は異世界でも伝説の美女なのか」

と問われ、伝説の社畜という言葉が、アントンの言葉につられてよぎるが、なにも伝説ではなかった。


 ただの社畜だ。


 自分がいないと会社が回らないくらいの勢いで働いていたが。


 おそらく、いなくても回っていることだろう。


 アントンと目が合うと、彼は嬉しそうに笑う。


「その会社というところもお前を必要としているかもしれないが、私もお前を必要としているぞ」


 恋愛と仕事は違うから、どっちでより必要とされているとか比べるのはおかしいけど。


 まあ、そう言ってくれるのは嬉しいかな、と思ったとき、


「此処だな」

とアントンがラロックの部屋の前で立ち止まった。


 だが、アントンがドアをノックするとき、二人の間にいつの間にかなにかが居た。


 うわっ、と二人で声を上げる。




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