ちょっといい雰囲気になったんですが……


 王子が手にしていたのは器ではなく丸い大きなトレーだった。


 中に小さな皿がたくさんのっている。


 蓮の葉っぽいものに、ちまきのように巻かれたもち米とか。


 甘辛く味つけられたトリとナッツとか。


 野菜ののった麺みたいなものとか。


 フルーツとか。


 周りを囲っている薄布を開けて、森の空気を直接肌に感じながら、王子とアキはお湯に足をつけて座り、それらを食べた。


「おいしいですが、太りそうですね~、こんな時間に食べたら。


 でも、この世界に来て気づいたんですが。

 私、結構不思議な味付けの料理でもいけます」


「なんだ、不思議な味付けって……」


「食べ慣れてない味付けって意味ですよ」

と言いながら、アキはシメのフルーツを食べ、酒を呑む。


「まあ、どんな料理でもお酒がついてるだけで、とりあえず、満足な感じはするんですけどね」


 そう笑うと、王子はアキがぴちゃぴちゃと足を動かしたところから広がる波紋を見ながら言ってきた。


「時折、この女を国に連れ帰って大丈夫かなあとは思うんだが……」


 すみませんねえ。

 どうせニセモノの姫ですから、と思っていたのだが、王子は渋い顔をし言う。


「でも、俺自身はニセモノだろうが、なんだろうが。

 何故だか、他の女を連れて帰る気にはならないんだよ」


「あれだな、きっと。

 人はスリルを求める生き物だから。


 もうお前なしでは生きていけない感じなんだな」


 ……最後のところだけ聞きたかったですね、そのセリフ、と思いながら、アキは残りの酒を飲み干した。


 そのとき、森の上の空に大きな光るものが走った。


「あ、綺麗ですね。

 火球かきゅうですかね?


 ロケット……なわけないか」

とアキは呟く。


 流れ星と火球は違うものかと思っていたが、明るい流れ星が火球なのだという。


「……綺麗ですね」


 火球が流れたあとに残る、淡く光る雲か煙のような流星痕が見えた。


 まるで天でのたうつ龍のようだ。


 そのとき、なにかが頬に触れたのを感じた。


 王子が頬に軽く口づけてきたのだと気づいた瞬間、アキは王子の肩を強く突いていた。


「人殺しーっ」


 いや、頬にキスされただけなのだが、動転して叫んでしまう。


 危険な男だと認識してしまったせいだろう。


「殺されそうになったのは俺だっ!」

と頭から広い風呂に突っ込んだ王子が叫んできたが。





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