噛めば噛むほど味のあるパンにパリパリのキュウリのサンドイッチ



 ヤナギのかごに入った、ちょっと硬めで噛めば噛むほど味のあるパンにパリパリのキュウリのサンドイッチ。


 ちょっと癖のあるチーズと冷めても何故かジューシーなウインナー。


 それに完熟もぎたての柑橘類。


 森の中の木陰で昼食になり、アキはわくわくしながら、イラークのお弁当を開けてみたのだ。


 素朴なメニューだがイラークがセレクトしただけあって、味がいい。


 そして、食べ合わせが絶妙な感じだ。


「チーズもパンもウインナーも。

 見た目、私のいた世界と変わらないけど、なにかこう深みのある味がします」

と笑って言うと、そうか、と王子はちょっと嬉しそうに言った。


 自分の世界を褒められた気がしたからだろう。


「ワインも飲めよ」

と野外で使うのには少し豪華なグラスを手に言ってくる王子が自らも飲んでいるのを見て、


「この世界には飲酒運転とかないのですか」

と訊いてみる。


 まあ、車とは違って、優秀な馬様が勝手にいい具合に走ってくれるんだろうな。


 ものすごいAIのついた車みたいなもんだからな、と思う。


「いい宿ですよね、イラーク様の宿。

 私はうさぎ様の確認にまたあの宿に行きたいです、王子」

と言うと、


「……イラークだけではなく、うさぎまで様なのに、俺が呼び捨てっぽいのはどうしてだ」

と言ってくる。


「というか、そんなにあのうさぎが気になるのなら、お前が引き取るか、買い取るかすればよかったのではないか?」


 ああっ、しまったあああっとアキは今来た道を振り返る。


「あっ、でもお金がありませんっ」


「俺の金があるだろうが、湯水のように使え。

 お前は一応、偽物とはいえ、王子の妃なんだから。


 我が国はそれなり裕福だぞ」

と王子が言ってくる。


「私はあまり贅沢を好まぬが。

 お前は好きに使っていいんだぞ」


「……そういう言い方されると一円たりとも、無駄に使えませんよね」


 いや、この世界の通貨に円はないだろうが、と思いながらも、アキは礼を言った。


「でもまあ、ありがとうございます。

 けど、湯水のように金を使えと言われても、そんなに使うことって、ありませんよね?」


 なにするんだろうな、この世界で湯水のように金を使うって、と考える。


 大抵のものはあの木箱から、それこそ、湯水のように出てくるしな。


 だが、次々と出てはくるのだが、それを再び、あの木箱に収めてしまうと消失する。


 リサイクルされているのだろうか。


 実は、アンブリッジローズ様の部屋に転移してたりして、とアキは思った。


 ドレスであの狭い塔の部屋が満杯になり、こらーっと怒られるところを想像する。


 次に、自分たちが願うたび、アンブリッジローズがその衣服を解いて、高速で縫い直しているところを妄想した。


「あはは」

と笑って、……今度はなにがおかしいんだ、という顔を王子にされる。


 まあ、ひとつ問題なのは、うっかり気に入ったデザインの服や宝飾品をあの箱に入れてしまうと、消えてしまうということだ。


 今朝、それを知らなくて慌てた。


 今のドレスも気に入っているから、うっかり木箱にしまってしまったら、ラロック中尉にまた、なんとか思い出してもらって、もう一度作ってもらわなければならないだろう。


 しかし、湯水のように金を使うか。


 うーむ。

 いざやろうと思うと難しいな、と思ったアキはもう一度唸り、呟く。


「……そうですね。

 湯水のように、うさぎを買い取るとか?」


「はい、行きますよー」

とラロック中尉がまた阿呆なことを言っている、というように話を切り上げさせた。




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