なんでも出せる宝の箱だぞ?



「いや、本当になにをしている……?」

とちょっと不安になったように王子は訊いてきた。


 アキがいつまでも木箱を見つめていたからだ。


 王子はアキの側にしゃがみ、

「そういえばそれ、どんなドレスでも出るんだろ?」

と言ってきた。


 アキを見、

「いささか地味では?」

と言う。


 美しい薔薇色のドレスだが、確かに飾りがない。


 別に旅しやすいようにシンプルにしたわけではない。


「いや~、いまいちイメージできなくて」

とアキは苦笑いする。


「この木箱、自分の思った通りのものが出ると言うことはですね。


 ……上手くイメージできないといいものが出てこないということなんですよ」


 とりあえず、アンブリッジローズの花を思い出しながら、ドレスを出したので、こんな感じになったのだ。


「薔薇を思い浮かべて出したらこれだったんですけど。

 その前は、幕とかカーテンみたいになってましたね。


 もっとこの時代のドレスを学ぶ必要があるかもです」

と言ったあとで、アキは呟く。


「……これって実は、デザイナー的な才能のない人間には役に立たない代物なのでは」


 だが、王子は前向きだった。


「いやしかし、考えてみろ。

 やりようによっては、すごいものが出せるかもしれないではないか」


 二人で箱の前にしゃがんだまま、うーん、と考え込む。


「似た者同士ですね」


 ぼそりと呟きながら、ラロック中尉が通っていった。


 まだ、うーん、と考えていた王子がこちらを見て言う。


「そうだ。

 なんかすごいネグリジェを出してみろ。


 ちょうど着て寝るものがないだろう」


「なんかすごいネグリジェってどんなのですか?

 王子、想像しながら、この箱に触れてみてください」


 触れて想像すると、その想像した物が出てくるのだ。


 アキに言われ、王子は、そっと箱に触ろうとして手を止めた。


「……いいのか?

 本当にすごいのを妄想のままに出すぞ」

とアキを間近に見ながら言ってくる。


 いや、どんな妄想なんですか、と思いながら、アキは確認のために訊いてみた。


「それ、誰が着るんですか?」


「お前だろう」

「いりません」


「お前だろう」

「いりません」


 そんな押し問答をしていると、二人の間から、にゅっと手が伸び、箱に触れた。


 ラロック中尉だ。


「まだやってたんですか。

 もう寝てください」

と言いながら、ラロック中尉が箱を開ける。


 上品なシルクの白いネグリジェが出て来た。


 先程からの話を聞いていたようだ。


「ラロック中尉っ。

 デザイナーになれますよ!」

とアキは言ったが、その露出の少ないネグリジェに王子はちょっと不満げだった。


「……まあ、お前にはそういうのが似合うか」

と一応言ってはいたが。


 いや、一緒に寝ないのに、私がなに着て寝ててもいいんじゃないですかね?

と思いながら、アキが、

「中尉、すごいですね」

とラロック中尉を褒めたたえると、彼は少し照れながら、


「それは母のネグリジェを元にイメージしたんだ」

と言ってくる。


「……なんでしょう。

 何故か今、一気に中尉の好感度がマイナスに近づきましたよ」


「仕方ないだろう、こいつ、恋人居ないから」


「王子に言われたくないですね~」

と三人で揉める。


「わかりましたよ。

 今度から、デザイナーの人にイメージを伝えて、箱に触ってもらえばいいんじゃないですか?」

と言うラロック中尉のもっともな提案に、もういろいろとめんどくさくなって、


「ええーっ?

 この箱役に立たないーっ」


「捨ててけ、もう此処に」

と王子と二人、後ろからアンブリッジローズに飛び蹴りを食らわされそうなことを叫んでしまう。


「やはり、似た者同士ですね……」


 何故、なんでも出せる宝の箱を粗雑に扱うのですか、とラロック中尉に言われたが。


 いやいや、才能がないとなにも出せない箱など、私なんぞにはなんの役にも立たないじゃないですか、とおのれをよく知るアキは思ってた。






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