繁華

 夜、香る煙草と安い香水がネオンと相まってこの街の品のなさを表している。肩で風を切って颯爽と歩く、耳にはイヤホン、コードの先は古いアイポッド。キャッチの声は聞こえない。寄ってくる男女をかき分け自身の目指すべく一点へとただひたすらに歩を進める。


 スカジャンに押し込んだ潰れた煙草の箱、折れた煙草が出てくる。フィルターをちぎって捨てると、構わずそのまま火をつけ蒸す。調和する音楽、肺に流れ込む完璧な調合を施した煙。脳味噌がくらっと揺れると街の光はより激しくなる。道中、ボロい自販機で安い酒を買う。一気に流し込みビンを投げ捨てる。乞食が群がる。空き缶を潰す男。大量の袋を抱えた男。浅黒い肌で毛布に包まった老婆。


 こんなにも明るい街のすぐそばに広がる光の届かない世界。自販機の下に万札を押し込むと、代わりに封筒を取り出す。近くの公園のベンチへ腰掛け、封筒の中身を手早く紙で巻く。ジッポで火をつける。ジッポのオイルの匂いと、独特なスモークが一面に広がる。目頭がじわっと熱くなる。楽しくなってきた。


 酔い潰れた太ったサラリーマン、乞食に唾を吐きかける金髪。汚い。サラリーマンの横腹を蹴ってみる。世界が心地よく流れる。音が少し遠のいた気がした。吸い終わった燃えかすを投げつける。激昂、身体に走る鈍痛。楽しい。最高に笑える世界。汚い街、汚い血、動かなくなった金髪を放って歩き続ける。


 夏なのに長袖の女。厚化粧で好みではないな。目が合う。腰を振ってみると喜ばれた。今日は気分が良い、煙草の残りを乞食に渡す、丁寧にお辞儀をして。匂いがよくわからなくなってくる、汚い公衆便所の落書きを眺めながら用を足すと洗面台をじっと見つめてみた。


 真っ赤に充血した目。夜に生きる猛禽類。赤い目のフクロウ。今夜も睨みをきかせる蛇どもを食うことにしよう。なんたって今日は気分が良い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

思いつきSS集 @wanichi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ