文化祭

 十月も中旬に入った。

 季節はそろそろ秋の涼しさから、冬の寒さに移り変わろうとしていた。


「というわけで実行委員を男女それぞれ一名ずつ決めたいと思う」


 そんな中、ホームルームにて担任からそう説明があった。


 そろそろ文化祭の時期か。

 僕が通う高校では十月に文化祭が行われる。

 秋に行われるのが一般的だと思うが、うちの学校も例外ではなかった。


「誰か実行委員に立候補してくれる者はいないか?」


 周りを見渡しながら、担任がそう言うが、誰一人として手を挙げるものをいなかった。


 まぁそりゃそうだよね。

 実行委員になれば、放課後には文化祭の準備やらで忙しい動くことになるし、進んで手を挙げる人はいないだろう。


「まぁいきなり言われてもみんな困るだろうから、一日よく考えて明日また立候補を募ろうと思う。もしいなければ推薦方式になるからみんなよく考えておくように」


 担任のその言葉と共にホームルームは終了するのだった。

 そしていつも通り、僕はカバンを掴むと足早に教室から出ていくのだった。














 ♦︎













 その日の夜。夕食の場にて。


「あなたのクラスでは実行委員は決まった?」


 今日の晩ご飯はカレーだった。

 スプーンでルーとご飯をすくいながら、倉田さんがそう尋ねてきた。

 どうやら、倉田さんのクラスでも実行委員の話が出たみたいだな。


「いや、まだだよ」


「あら、そうなの。じゃあ、あなたが立候補してちょうだい」


「……え?」


 今、なんて言った……?


「なんで、僕が……?」


「実はな、お嬢が実行委員に選ばれたんだ」


「倉田さんが?」


 それに選ばれたってどういう意味だ……?


「クラスメイトの連中が是非にって、お嬢を推したんだ」


「ああ、なるほど……」


「人望ってやつは怖いわね」


 ふふふと嬉しそうに笑みを浮かべる倉田さん。

 うーん、人望もあるだろうけど、みんな、面倒なことを押し付けただけじゃないのかな……?

 倉田さんの有名度を逆手に取ったというか……

 まぁ、本人が気にしないなら別にいいんだけどさ……


「で、それでなんで僕が実行委員に……?」


「決まっているでしょう?彼女が実行委員になるのよ。彼氏もなるべきでしょう」


「ええええ……」


 何、その理屈……


「まぁ頑張れ。私にできることなら手伝うから」


 桐谷さんはそう言って、席を立ち、僕の肩を叩いてから、食べ終えた食器を台所に持っていった。


 なんだって、またこんなことに……

 そう思わずにはいられなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕の弱みを握った美少女が彼氏になれと脅してきました あすか @gantz001

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ