監視

 夕方の五時過ぎ。


「……」


「……」


 僕の両隣で穏やかな表情で寝息を立てる二人。


 今は帰りの電車の中。

 プールですっかりはしゃいでしまったせいか、二人は電車に乗り、座った途端に、すぐに眠りに入ってしまった。


「……」


 そして、二人とも何故か僕の肩にもたれかかってくる。

 おかげで、他の乗客から注目を集めてしまう。

 まぁ、嫌ってわけではないんだけど、少し居心地が悪い気がする……


「ん……?」


 その時だった。


 僕は誰かに見られている気がした。

 いや、そもそも十分周りから見られているんだが、そうではなくて、上手く言えないが、なんというか、見張られている気がするというか……


 僕は慌てて、首を左右に動かし、誰が視線を向けているのか、確かめてみる。


「う、んんん……」


 しかし、いきなり動かしたせいか、左隣にいる倉田さんが小さく声を上げた。


 起こすのはかわいそうだと思い、僕はすぐに元の位置に首を戻した。


 一体、誰が見てるんだろう……

 もしかしたら、気のせいかもしれないけど、どうも気のせいには思えないんだよな……


「お前も気づいたか」


「え、って、おおお……!?」


 その声で右隣に目を向けてみると、いつのまにか桐谷さんが起きていた。

 思わず、変な声が出てしまった。

 桐谷さんは、鋭い目で周りを見ている。

 むしろ、鋭すぎて、周りの人がかなり警戒している。

 まぁ寝ていたと思ったら、いきなり起きて、周りを睨んでいる状況だもんな。

 そりゃ、誰だって警戒するよね……


「どうやら、誰かが私達を見張っているようだな」


「あ、やっぱり……?」


「しかし、よく気がついたな。ただのぼーっとしている男かと思っていたが……」


「ははは……」


 桐谷さんは一体、普段、どんな目で僕のことを見ているんだろう……


「でも、誰がなんの目的で……」


「決まっているだろう。私達の監視だ」


「監視……」


「しかし、私達が気づいた途端にその気配も少し消えた。相手もただ、闇雲に見ているわけではないようだな」


「……」


 まるでスパイ映画さながらの状況だな……

 っていうか、こんな会話、普通しないよね。

 ここって日本だよね?


 それにしても、一体誰がなんの目的で僕達のことを監視なんて……

 僕達は健全な高校生達なのに……


 やっぱり、これは倉田さんのお父さんが関係しているのだろうか。

 いや、そうに決まってる。

 だって、プールのチケットを渡した、その帰りにこんなことになっているんだ。

 関係ないはずがない。

 きっと、お父さんが誰かを送り込んだんだ。

 あ、待てよ……?

 もしかして、あの女性か……?

 また会うかもねって、このことだったのか?

 いやいや、まさか自分からそんなネタバラシするなんてありえるかな……

 普通なら、隠すよね……


「なんだ、難しい顔をして」


 すると、そんな僕の様子を見て、桐谷さんが話しかけてきた。


「え、あ、いや、なんでもないよ。ただ、監視なんて誰がって思っただけで」


「そうだな。まぁこちらも警戒しておけば、今のところは大丈夫だろう」


「そうだね……うん、ありがとう」


 桐谷さんのその一言は頼もしかった。

 そして、僕達が電車を降りるまで、特に何も起きることはなかったのだった。

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