第2話

「お兄ぃ、行こう?」

「わかった」

なんとも買い物に行くみたいな軽い返事なナギ。さっき覚悟がどうかとか言ってなかったっけ?

「かわいい妹の頼みなら断れない。それは仕方ないことだ」

ドヤ顔で言うナギにアスランは呆れるしかできなかった。


**********

「「行ってきます!」」

「…」

村の人達に見送られ元気に挨拶をするリナとアスランと対照的なナギ。この旅の一番重要なのはナギのはずなのに。

「ナギも頑張ってな」

「旅が終わったらまた遊ぼうね」

「あぁ…」

またな…という挨拶は、別の声にかき消されてしまった。

「大変だ!」

血相を変えた男が村の奥から走って来た。ただごとじゃない事はその場にいた誰もが気づいた。

「どうしたんじゃ」

村長が男を落ち着かせ、事情を尋ねる。男は息を整える暇もなくこう言った。

「竜巻だ!大きな竜巻がこの村目がけて来ている!早く逃げないと!」

「なんだって!?」

その言葉に村中パニックになり、ナギ達の見送りどころではなくなってしまった。

「みんな!今すぐ村の外れの丘の上に避難じゃ!」

「ほら!早く!」

「あぁ、リナも行くぞ!」

「お兄ぃ…」

リナの手をひくと、リナはその手を払った。

「リナ、まさか」

「お兄ぃは逃げて!お兄ぃもこの村も守りたい!竜巻止めてくる!」

「リナ!!」

捕まえようとしたナギの手は弧を描き、リナは走り去ってしまった。

「ナギ!逃げるよ!僕らは神子であるナギのこと守らなきゃいけないんだ」

アスランの手が反対側のナギの腕を掴む。

「アスランはなせ!リナ!行くなリナ!」

「ナギ!リナの気持ちも考えて!ナギに何かあったら世界が終わってしまうんだ」

そう。神子は、ナギしかいないのだ。ナギがいなくなってしまうと、世界は衰退への道しかなくなってしまう。必死にナギを止めるアスラン。

「うるせぇ!リナがいない世界なんて俺には世界が終わったと一緒だ!」

アスランの手を力任せに振り払うと、リナが走って行った道へ駆けていく。

「ナギ!」

ナギをアスランは追いかけた。そのアスランの後ろを追いかけた人は誰もいなかった。


**********

リナの行った方は風が強くなっており、それは竜巻が近いことを意味していた。

どれくらい走っただろうか。目が開けられない程の風が吹いていた時、人影が見えた。その姿はナギが思い描いていた人だった。

「リナ…!」

安堵をした束の間、リナの姿に驚愕した。

風で木や枝がリナを襲いかかったのだろう、リナの白い肌には赤い筋が無数についていた。その痛みに我慢をしているのか時折苦しそうな顔をしながら両手を前に出している。

「風の魔法で押し返そうとしているのか」


——魔法。人々の生活にかかせなくなってしまった魔法は、誰しもが使えるものであり、使えないと生活できない技術スキルとなった。学校では生活に必要な魔法を学ぶところでもあり、成人までには魔法を覚えなくてはいけない——


しかし、生活で使用する程のもの。ましてや、リナはまだ15歳なのだ。大人が逃げ出す竜巻にリナが歯が立たないのは誰もがわかっていることだった。

だが、リナは逃げ出さなかった。

「ナギ…リナが」

大人が何人束になっても歯が立たないのは、近づくともっと理解できた。16歳の2人が加わってもどうすることもできないのはアスランはわかっていたのだ。

「アスラン、リナを離してくれ」

「え、大丈夫なの」

「あぁ、任せてくれ」

安心させるためなのか、自信があるのか、アスランに向けて笑った。その後竜巻を前に立ち止まると、深呼吸し、目を瞑り片手を前に出す。

「リナー!こっちへ!ナギがなんとかできるみたいなんだ」

「え、お兄ぃ…」

リナをナギの後ろへと誘導する。声をかけていけないと思い2人とも心配そうに見つめる。

目を開けると手に力込めた。

「エクスプロージョン!」

途端、竜巻が大爆発にかき消され辺りは静かになった。

「え…」

「こんな強力な魔法…」

いつ使えたの…とそんな声は口の中に吸い込まれた。

ナギがその場に崩れたからだ。

「ナギ!」

「お兄ぃ!」

肩で息をしているナギの元にすぐ駆け寄る2人。

「もうこんなことしないからな…」

と、座りながらリナに向けて話す。そして

「ケアル」

とリナの傷を癒す。

「ありがとう、お兄ぃ」

「あー魔力切れ。疲れた」

「おつかれ、ナギ」

横になって見上げた空は青かった。


**********


竜巻が消えたことで村には被害はなく、全員が無傷で終わった。それがナギのお陰だと知った村長はナギのことを祭った。

その事にナギはうんざりしていた。

「ナギ、もっといい顔したら?」

「…」

「みんなナギのこと応援してんだよ?」

「…」

何を考えているのか、親友の思っていることが全く分からないアスランは直球で聞いてみた。

「なんでそんなに面白くないのさ」

すると今まで黙っていたナギが口を重たそうにして静かに話した。

「…神子だからというフィルターで俺を見るんじゃなく、俺は俺であってほしかった」

ナギはだからとずっと言われてきたんだろう。そうではなく、ナギは一人の人間ということを理解してほしかった様だ。

しかし、今の世の中ではそれは無理に等しい。神子の力を皆んなが期待しているのだから。だから、僕は…

「ナギはナギだよ。神子だから親友やってるんじゃないよ」

そう言葉にして伝えた。

「ああ、わかってるよ」


これは出発する前日の話。明日から旅に出る。







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ようは、あれだよな? 雪うさる @snowrain2

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