活動報告:読了作品を語っていく⑩

 そんな中、早速語っていきたいと思います。

 ⑩作品目は、こちら!


 ■オレンジ11 様

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054895360951


 オレンジ11じゅういち様は、私のカクヨム人生で最も長いお付き合いをさせて頂いている作家様のお一人です。カクヨム内でも「カク」「ヨム」の双方ともに積極的に活動されていて、名作ディガー(掘り出す人)でもあり、そして実力派です。カクヨム内コンテストでそのお名前を見ることも多く、カクヨム内での交流も積極的にされていて、ファンの方も多いのではないでしょうか。

 ご自身のエッセイでは、作品執筆に取り組む姿勢、手法、準備や調査、何を考えてそうしたのか、面白い作品の発見など、貴重な情報を惜しげもなく披露して下さっています。サービス精神旺盛!


 そんなオレンジ11様の(私の)イメージといえば、とにかく「端正な筆致」。過装飾を避けた無駄がない筆致はとても読みやすいのです。

 もう一点が、「リアル」。人間味を追求した描写で、「キャラクターに台詞を言わせていない」感じがとても印象的。人間を描こうとされているのですね。

 そしてそれを盤石にするための、徹底した調査。「多分こうだろう」という所で終わらせない調査に裏付けされた世界は、よりキャラクターの立体感を引き出します。

 そして、勤勉です。刺激やコメントなどの指摘から、良いと思ったことを即実行に移す。

 そういう部分を含めて、尊敬している作家様です。



 さて、そんなオレンジ11様の本作ですが、やはりリアルが追求されています。

 テーマは「人生の岐路」。


 本作のストーリーで特徴的なのは、毒親が登場するところです。優秀な桜子はどうも家族関係が上手くいっていない様子。それに向き合う先生像が描かれます。教師から見た「生徒の家庭環境」は踏み込みづらい課題であり、しかし本作はそれと真正面から対峙することが、他の作品にはあまりない特徴と言えると思います。


「それ間違っているでしょ」と思う課題に対して、「なんとか改心してもらいたい」という理想を掲げ、あの手この手を講じて、ついには納得してもらい、最終的には当事者から感謝される。そんな気持ちのいい展開は世に出回っている多くの作品で見ることができる一種の王道カタルシスな訳で、ゆえに多くの作家がその手の作品を描きがちです。

 ――しかしまぁ、現実はそんな話ばかりではないですよね。

 それに上記のパターンの問題は、「相手は間違っている」と決めつけ、相手のスタンスを尊重していない。相手が絶対悪ならそれもよしとしますが、では現実に目を向けると、これは絶対悪だ、と言えることなんて殆どありません。あるのは、スタンスの違いだけなんですよね。


 その点、この作品では、そういった「正義の押し付けない感じ」がして好印象でした。登場人物それぞれには考え方やスタンスがあって、その中で最適解を見つけていくというか、もちろん中には自分の感情を押し付けてくるキャラクターもいる訳ですけれど、それでもそんな中で、一番良いところに収まるように、そんな思いを抱えながら登場人物達は日々を過ごしているんです。

 そこで、キーとなってくるのが、葉太の発言。客観的な立場で発した言葉がきっかけとなり、それを受け取ったことで、「その事実」に向き合うきっかけを作り出しています。


 ここらへんのキャラクターの造形や思考は、作者様のご経験が生きているのだと私は思っています。もし登場人物に「人間味」を出すことが苦手だと思う作家様がいれば、オレンジ11様の本作からは実に多くのことを学べると思います。

 私もこの作品を読んで、「は、そういえば私も……。気をつけなければ」とおもったのです。


 そして、文字数が少ないのも大きなポイントです。

 情景描写や心理描写にこだわろうとすると、つい文字数が増えがちです。よく言われることですが、文字数は増やすより削減する方が難しい。どこが無駄でどこが必要かを整理できる能力は、一両日で身につくものではありません。

 麻雀ではよく、「手役に惚れる」という言い方をします。自分の仕上げた作品(手役てやくの美しさをついつい優先してしまって、本来の目的である勝ちにいく為の手段が取れなくなってしまうことを言います。

 これは小説執筆にも通づる部分があって、自分の書いた理想的なフレーズや表現に惚れてしまって、「物事を伝えるという本質」から逸れてしまうこと、曲げられなくなることって良くあると思います。

 伝え方が九割というように、読み手にどう伝えるかを考えた場合、ニュアンスを正確に伝えられるなら文字数は少ない方が良いです。その方が早いし、相手の脳負担も削減できる。だからその分読み手は多くページをめくれるし、そうすれば作品の物語の面白さに早期に気づけ、最後まで読みたいという欲求まで持っていける。

 そのためには、「どこが必要で」「どこが不要で」「どこがおまけか」を分別できる能力が必要になります。不要はカット、おまけは折をみて出す。これ、小説に限らず、現実での仕事などでも非常に重要なことですよね。


 じゃあ、どうやってその選択をしているの?

 どうやって勉強してるの? 何を考えて?


 知りたくなりますよね。教えてもらいたくなりますよね。

 そこで冒頭のご紹介。エッセイで惜しげもなく語ってくれているんですよ!


 ■ゆるいエッセイ

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054885771649


 そして今回の企画でのコメントから、早速すでに改稿に取り組まれておりました!

 なんと、改稿前と改稿後の豪華二本立て仕様。どちらか一方でも、両方読んでも美味しいという、ある意味筆致企画のおいしい所取りな作品です。



 とかくこの作品は、そんなオレンジ11さんの誠実さとおもてなし精神が存分に発揮された作品だと思います。重いテーマにも関わらず、すっきりと仕上げ、何かを読者に残していく手腕は、お見事でございました。



 それでは、また。

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