第6話 やっと……
「俺は宮野明日香さんが好きです!」
俺はこの時早っ!と思っていた。こんなに効果が出るとは思わなかった。1週間はかかると予想していた。
告白された宮野さんは顔が真っ赤になっている。
「彼氏のいる前で言うことじゃないことは分かっています。でも、言わせてください。俺は入学式初めてあなたに合った時、一目ぼれしました。それからずっと告白しよう告白しようと考えていたけど無理でした。遅いと気づかされたのは今日でした。宮野さんが大樹と付き合っていることが分かってからでした」
和樹は悔しそうに言う。
まぁ、いいか。芝居なんかしなくて良くなったんだし。俺も好きな人が取られるようなことにならなくて。
「もう聴きましたか?俺が小学生の時大樹にしてしまったこと」
「はい」
「俺は大樹にひどいことをしました。だから、大樹が好きな人を訊いてきてもいないと言い続けて来ました。どこかで仕返しされるかもしれないと思っていたんでしょう」
やったのお前だろと思ってしまう俺は悪いのだろうか?いや、悪くないだろう。ま、もう気にしないけど。
「俺がここに来たのはこれを伝えたかったからです。俺は宮野明日香さんのことが好きです。断られることは分かっています。でも、これだけは伝えたかった」
宮野さんの顔を見るとすごい真っ赤になっている。
宮野さんの言う通りだったなぁ~。まさかこんな作戦がうまくいくとは。
「最後に大樹、ごめん!目の前でこんなこと言って」
まさかここで振られてくるとは思ってなかった俺は少し反応が遅れた。
「い、いや、別にいいけど。親友の初告白シーンを見ることが出来たし。これで小学校のときのことはチャラにしてやる」
出来れば宮野さんと付き合うことになってから、しこりが残ってたら嫌だしな。
「じゃあ、後で」
そう言って今にも泣きそうな顔をしている和樹は走り出していた。
「待って!西谷君!」
それを宮野さんが止めた。和樹は走っていた足を止めた。宮野さんは俺の方を向いて小さく一礼してきた。
「西谷君、私からもお話があります」
「……」
これから思いっきり振られると思っているのか和樹の目は涙で溢れそうになっていた。
「私も西谷くんのことが好きです!」
声を震わせながら宮野さんは言い切った。その言葉に和樹は口をポカーンと開けていた。
「ふふ」
俺は思わず吹いてしまった。ここで吹かずしてどこで吹けと言うんだ!
一拍おいて和樹は反応した。
「え?」
「ですから、私は西谷君のことが好きです!だから、私と付き合ってください!」
「え?え?どうゆうこと?」
「だから」
あ、ダメだわ。腹が痛い。面白すぎるだろ。え?人の告白シーンで笑うなって?無理です!
でも、そろそろ助けてあげないと宮野さんが羞恥で倒れそうだ。
「宮野さんもういいよ。俺から話す。和樹、お前な~、自分が告白した人が好きって言ってくれてるんだからオッケー貰ってってことだろ。そんなに頭わるくなったのか?」
「え?だって。二人付き合ってるんでしょ?」
「そんなこと一言も言ってねえだろ。そもそも互いに下の名前呼びしたからって付き合っていることにはならないぞ。俺と宮野さんは付き合ってない」
「は?」
和樹は訳が分からないと言ったような顔をする。
「まぁ、分からないのも分かるけど。最初から話そうか。まず、宮野さんは絡まれてもいないよ。だから俺は助けてない。昨日、宮野さんから呼び出されて、お前のことが好きだから、わざわざ俺と偽恋人になれと言われたんだよ」
「なぜ?」
「お前の嫉妬を煽るためだ。お前が宮野さんを好きだという事は分かっていたからな。しかも、全然告白する雰囲気がなかったから俺が助太刀したわけ。そして、その罠にまんまとお前は引っかかったわけだ。まさか、こうも単純に行くとは思いもしなかったけどな」
しばらく黙っていた和樹ははっとした表情になった。
「おい!じゃあ、俺が悩んだ意味は何なんだ!俺はめっちゃ焦ったんだぞ!お前を傷つけたと思って!」
「それはお前が悪い」
「それはすまん。でも、本当なのか?俺は信じられないんだが?」
確かに。こんなことされれば俺の罠だと思うかも知れないな。
「宮野さん、めんどくさいからキスでもしておけ。俺は教室戻るから。じゃあな」
「あ!ちょい!待て!」
「……」
俺は走って屋上のドアを開け閉めた。和樹が叫んでたが知らない。宮野さんの顔はさらに赤くなっていた。
俺は屋上の窓からどうなるのかそっと見ていた。
和樹も宮野さんも顔が真っ赤になっている。そして、宮野さんは意を決し和樹の頬にキスをした。
二人とも湯気が上がりそうなくらい真っ赤になった。
ああ、大丈夫そうだな。
俺は安心して教室に戻った。教室に戻ったらめちゃくちゃ質問された。宮野さんと付き合っっているのか?どうしてお前なのかと。でも、付き合っていないと言えば、嘘つけと言われた。それほど、宮野さんを下の名前で呼べることと下の名前で呼ばれることが大事なのだろう。
しばらくして和樹と宮野さんの二人は手をつないで教室に入ってきた。その二人を見た瞬間教室は一瞬静かになった。
「俺たち付き合うことになりました」
和樹がそう言うと教室は歓喜の拍手で溢れかえった。隣のクラスも何事かとやってきて、それに加わった。二人はそれほどお似合いだった。
俺も拍手をした。二人はそんな俺を見つけるとこっちに向かって歩いてきた。
「大樹、ありがとう」
「四宮くん、ありがとうございます」
二人は俺に頭を下げた。
「いや、俺もじらしかったし。宮野さん、絶対和樹を放つんじゃないぞ。これは命令だぞ。そんなことしたら怒鳴りに行くからな!こいつは男子の敵だ。しっかりと手綱を握っておいてくれよ」
「はい!もちろんです!」
宮野さんはそうはっきりと宣言した後、自分が言ったことに気づき、顔を赤くした。そのことに教室中笑いで溢れかえった。
まぁ、頑張ってお二人さん。末永くお幸せに。そして、俺が将来好きな人が出来たときのために。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
これにて完結です。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
良かったと思って頂けたのであれば幸いです。
親友の好きな人が俺の偽恋人になりました 風上 颯樹 @kazekami
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