陶潜6  酒       

九月九日の重陽節に酒が無かったため、

陶潜とうせんは家の近くで菊の花を摘み始めた。

そこに、王弘おうこうから酒が送り届けられた。

陶潜、その酒をその場で飲んでしまうと、

酔った足で帰途に就いた。


陶潜は特に音楽を

嗜んでいるわけではなかった。

とはいえ家には弦のない琴があり、

酒に酔うごと、琴を撫でさすっては

自らの想いをうたい上げた。


陶潜、来客があると、酒があるときには

その人の身分にかかわらず宴席を設けた。

ただし陶潜が先に

酔っぱらってしまうと、言う。


「眠くなったのでお引き取り下され」


その率直にも過ぎる振る舞いは、

このようであった。


郡のある将軍が陶潜のもとに出向くと、

ちょうど陶潜の作っていた酒が

熟成された頃合だった。

陶潜、頭巾を脱ぐと、

なんと自らの帽子で酒を濾す。


それが済むと、再びその帽子を

頭に乗せるのだった。




嘗九月九日無酒,出宅邊菊叢中坐久,値弘送酒至,即便就酌,醉而後歸。潛不解音聲,而畜素琴一張,無絃,毎有酒適,輒撫弄以寄其意。貴賤造之者,有酒輒設,潛若先醉,便語客:「我醉欲眠,卿可去。」其眞率如此。郡將候潛,値其酒熟,取頭上葛巾漉酒,畢,還復著之。


嘗て九月九日に酒無からば、宅邊に出で菊叢中に坐すこと久しく、弘の送りたる酒の至れるに値い、即便に酌に就き、醉いて後に歸す。潛は音聲を解さねど、素琴一張の絃無きを畜い、酒適を有せる毎、輒ち撫弄せるを以て其の意を寄す。貴賤の之に造れる者は酒有らば輒ち設け、潛の若し先に醉わば、便ち客に語るらく:「我醉いたれば眠を欲す、卿は去りたるべし」と。其の眞率なるは此の如し。郡將の潛を候ぜるに、其の酒の熟せるに値わば、頭上の葛巾を取りて酒を漉し、畢うるに、還復し之を著す。


(宋書93-24_任誕)




この振る舞いには劉昶りゅうちょうを思い出しますね。魏晋ぎしん交代期、阮籍げんせきに何故か「お前にだけは酒をふるまってやらん!」とツンデレ的振る舞いを食らっていた酒飲み。モットーは「誰とでも飲む」。うーん、この辺、「国」は受け入れないが「人」は受け入れる、的な感じなんでしょうかねえ。似たような行動が書き残されているのには、ある程度通底したものがある、と見なすべきなんでしょう。


劉昶さんについてはこちら。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884883338/episodes/1177354054889811809

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