宗炳2  高情を分かつ  

劉裕りゅうゆう、太尉に任ぜられると、

改めて宗炳そうへいに招聘の手紙を出す。


「私はいま畏れ多くも、

 陛下よりの恩寵を頂戴している。

 陛下の思いに報いるためにも、

 世の賢人をさらに集めねばならぬ、

 と感じている。


 なにぶん、よく国を守る戦士も、

 広き視野を見通せる賢人も、

 我が側にあって政を補佐しうる人物も、

 みな野に埋もれている状態。

 張良ちょうりょう范増はんぞうのような人物も、

 いずことも知れぬ場におるのであろう。


 宗炳、周續之しゅうしょくし、そなたらはいずれも

 野にてその高き操を保ち、

 栄達に心乱されるようなところもなかった。


 そなたらのような人物にこそ、

 私は礼を尽くし、膝を屈したく思う」


二人には劉裕直属の執政官の

地位が約束されたが、ともに応じない。


劉裕は即位後も太子舍人として招聘、

劉義隆りゅうぎりゅうも通直郎として、

あるいは劉劭りゅうしょうが東宮入りした際には

太子中舍人、太子庶子として招聘。

いずれも蹴られた。


何せ、それどころじゃねーのである。

奥方の氏が、実に宗炳の意を汲む。

思想家としてのライバルは、

奥方だったんじゃねーの、

という勢いだった。


が、そんな奥方が死亡。


宗炳の悲しみは、

それはもう凄まじいものだった。

哭礼の期間がすぎると、

「なぜこうまで悲しまねばならないのか」

を、仏門に尋ねるようになった。


宗炳、慧堅えけんと言う僧に聞いている。


「なぜ人は生き、死なねばならぬのか。

 死による別れを味わわねばならぬのか。

 未だ、答えらしい答えには届きません。


 これまでにも二回、

 仏門にすがってまいりましたが、

 改めてお尋ねし、この悲しみの淵源を

 探りたく思うのです」


荊州けいしゅうにいた劉裕の末っ子、劉義季りゅうぎき

彼はちょくちょく宗炳のところに遊びに行き、

宴会を開いて楽しんでいた。


その縁があるんだ、ワイなら行けるやろ!

と、宗炳を部下として招聘したのだが、

フラれた。


443 年に死亡。69 歳だった。




髙祖開府辟召,下書曰:「吾忝大寵,思延賢彦,而兔罝潛處,考槃未臻,側席丘園,良增虚佇。南陽宗炳、鴈門周續之,並植操幽棲,無悶巾褐,可下辟召,以禮屈之。」於是並辟太尉掾,皆不起。宋受禪,徴爲太子舍人;元嘉初,又徴通直郎;東宮建,徴爲太子中舍人,庶子,並不應。妻羅氏,亦有髙情,與炳協趣。羅氏沒,炳哀之過甚,既而輟哭尋理,悲情頓釋。謂沙門釋慧堅曰:「死生之分,未易可達,三復至教,方能遣哀。」衡陽王義季在荊州,親至炳室,與之歡讌,命爲諮議參軍,不起。元嘉二十年,炳卒,時年六十九。


髙祖の開府し辟召せるに、書を下して曰く:「吾れ、忝くも大寵され、賢彦に思いを延ぶるも、兔罝は潛り處り、考槃は未だ臻らかならず、側席は丘園にあり、良と增とは虚しきに佇む。南陽の宗炳、鴈門の周續之、並べて操を植え幽棲し、巾褐に悶うる無し。辟召を下し、禮を以て之に屈したるべし」と。是に於いて並べて太尉掾に辟さるも、皆な起たず。宋の受禪せるに、徴ぜられ太子舍人爲らんとされ、元嘉の初には又た通直郎に徴ぜられ、東宮の建つるに徴ぜられ太子中舍人、庶子爲らんとされど、並な應じず。妻の羅氏は亦た髙情を有し、炳と趣を協ず。羅氏の沒せるに、炳の之に哀しむは過甚にして、既に哭を輟うるに理を尋ね、悲情を釋に頓ず。沙門の釋慧堅に謂いて曰く:「死生の分、未だ達すべくは易からず。三たび復た教に至り、方に哀を遣わすこと能わんとせん」と。衡陽王の義季は荊州に在り、親しく炳が室に至り、之と與に歡讌せば、命じ諮議參軍爲らんとせど、起たず。元嘉二十年に炳は卒す。時に年六十九。


(宋書93-7_傷逝)




側席丘園,良增虚佇とか鬼かな? とおもいまんた。(こなみ)


ちなみに兔罝としゃ考槃こうはんは、ともに詩経より。「兎取り網の設置」を国防の兵士になぞらえたものと、山沢にて「ゆったりと楽しむ」賢者とを表す語。側席と良増とは、正直謎。なんか典拠があるのかもしれませんが、調べ切れませんでした。これかなぁ、と当てはつけてみたんですけど、どうなんでしょうね。


なにせこの手の文章書いてんの間違いなく傅亮ふりょうで、このひと割と典拠からフリーダムに単語作る口だったみたいなんですよね。なので、もしかしたら典拠なんてもんは存在しない、のカモ。分かりませんが。

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