巻92 良吏伝

王鎮之1 三呉をおさむ  

王鎮之おうちんし、字は伯重はくじゅう

琅邪ろうや臨沂りんし県の傍流だ。

曾祖父は王廙おうよくしんの驃騎將軍。

祖父は王耆之おうきし、中書郎。

父は王隨之おうずいし上虞じょうぐ令。

なお弟には隠者の王弘之おうこうしがいる。


王鎮之ははじめ司馬徳文しばとくぶんの仮幹部に。

それからえん県、上虞県の県令となり、

それぞれで治績を上げた。

両県はともに会稽かいけい郡である。

当時会稽を治めていた謝輶しゃゆうは、

その手腕を認め、郡治所のある

山陰さんいん県に王鎮之を移籍させる。

と、そこでも抜群の治績。


その後中央に戻り、改めて

司馬徳文の幹部を経て本國郎中令に。

寧朔將軍位もまた加えられた。


桓玄かんげん司馬元顕しばげんけんらを殺すと、

桓玄幹部の諸事務取りまとめ役に。

この頃、郡周辺のエリアが

飢饉に見舞われていた。

そこで桓玄は王鎮之に現地援助の

指揮を取らせようとした。


の、だが。


このとき会稽郡の長官となっていたのが、

桓玄の義弟、王愉おうゆ(妻が桓玄の妹)。

私腹を肥やすことにばかり夢中となり、

民への援助など知らん顔。


ふざっけんじゃねーですよ、

王鎮之は王愉を糾弾したのだが、

むしろ王愉の子、王綏おうすいより

妨害工作を受ける。

なにせ王綏の立場はセレブの甥。

王鎮之はむしろ追い詰められ、

ついには母の介護をせねばならないから、

と、安成あんせい郡太守への転属を望んだ。




王鎮之字伯重,琅邪臨沂人,徵士弘之兄也。曾祖廙,晉驃騎將軍。祖耆之,中書郎。父隨之,上虞令。鎮之初為琅邪王衞軍行參軍,出補剡、上虞令,並有能名。內史謝輶請為山陰令,復有殊績。遷衞軍參軍,本國郎中令,加寧朔將軍。桓玄輔晉,以為大將軍錄事參軍。時三吳飢荒,遣鎮之銜命賑卹,而會稽內史王愉不奉符旨,鎮之依事糾奏。愉子綏,玄之外甥,當時貴盛,鎮之為所排抑,以母老求補安成太守。


王鎮之は字を伯重、琅邪の臨沂の人にして徵士の弘之が兄なり。曾祖は廙、晉の驃騎將軍。祖は耆之、中書郎。父は隨之、上虞令。鎮之は初に琅邪王衞軍行參軍と為り、出でて剡、上虞令を補せられ、並べて能名を有す。內史の謝輶は請うて山陰令為らしめ、復た殊績有り。衞軍參軍、本國郎中令に遷り、寧朔將軍を加えらる。桓玄の晉を輔せるに、以て大將軍錄事參軍と為す。時に三吳の飢荒せるに、鎮之を遣りて命を銜え賑卹せしめんとせど、會稽內史の王愉は符旨を奉ざず、鎮之は事に依りて糾奏す。愉が子の綏は玄の外甥にして、當時の貴盛なれば、鎮之は排抑さる所と為り、母の老を以て安成太守に補されんことを求む。


(宋書92-1_政事)




王愉王綏親子は、桓玄の敗北後まもなく劉裕りゅうゆうによって「謀反を企てたかどで」殺されているんですよね。そこから引けば桓玄の下でさんざんうまい汁を吸ってきたのかな。そういった結果から彼らの振舞いを引けるわけですが、ううむ。


桓玄が、はたしてどんな意図で王鎮之を送り込んだのか。彼が能吏なのは明らかなわけで、ともなれば義弟親子のもとに送り込めば、いろいろやばげなのは明白。


これは王愉たちから桓玄のもとに「私達は頑張ってます」って報告が行ってたのか、あるいは桓玄がその報告を疑って刺客的に送り込んだのか、はたまた能吏ともなれば桓玄にとってはいろいろ面倒くさい人種だから隔離の上監視しようと思ったのか。


これも自身の物語に適合するように、としか扱えなさそうですねー。

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