潘綜   孝子を殺すは  

潘綜はんそう吳興ごこう烏程うてい県の人だ。

孫恩そんおんの乱がおこった時、

孫恩軍の魔の手は潘綜の村にも迫る。

潘綜は父の潘驃はんひょうと共に逃亡を試みる。


しかし潘驃は年老いており、

満足に走れない。

そこに迫りくる、賊徒。

なので父は言う。


「わしはこれ以上逃げられん。

 お前だけでも逃れるのだ、

 どうか、共に死ぬなど

 あってくれるな!」


潘綜は進退窮まり、

ついには父の隣に座り込む。

そして、そこにやってきた、孫恩軍。


潘綜は賊徒に向け、

額も割らんかという勢いで土下座。


「我が父は老年!

 どうか、お救い下さい!」


その言葉が聞こえたのか、否か。

賊徒はずんずんと迫ってくる。

すると今度は、父が言う。


「我が子はまだ走ることができる!

 わしがあえてここに残ろう、

 その上で申し上げる!

 わしはどうなっても構わん、

 この子は見逃してくださるまいか!」


それを聞き、賊徒は潘驃に切りかかる!

潘綜、慌てて父を腹の下にかくまう!


潘綜は、顔面をはじめ、

四か所を切られてしまう。

その痛みに潘綜、苦悶の声を上げる。


そこに、別の賊徒が現れた。

そして言う。


「そなたらは大きなことを

 成し遂げたいのだろう。

 ならば、殺すべきではないぞ。


 今、息子は命をなげうってでも

 父を助けようとした。

 孝子を殺す者にはわざわいがある、

 とも言うからな」


それを聞いて、

潘親子を殺そうとした賊徒は

ようやく思いとどまった。


こうして彼らは、死を免れたのだった。




潘綜,吳興烏程人也。孫恩之亂,妖黨攻破村邑,綜與父驃共走避賊。驃年老行遲,賊轉逼,驃語綜:「我不能去,汝走可脫,幸勿俱死。」驃困乏坐地,綜迎賊叩頭曰:「父年老,乞賜生命。」賊至,驃亦請賊曰:「兒年少,自能走,今為老子不走去。老子不惜死,乞活此兒。」賊因斫驃,綜抱父於腹下,賊斫綜頭面,凡四創,綜當時悶絕。有一賊從傍來,相謂曰:「卿欲舉大事,此兒以死救父,云何可殺。殺孝子不祥。」賊良久乃止,父子並得免。


潘綜、吳興の烏程の人なり。孫恩の亂にて、妖黨は村邑を攻め破り、綜と父の驃は共に走りて賊を避く。驃は年老いて行遲し。賊の轉た逼りたるに、驃は綜に語るらく:「我れ、去る能わず。汝は走り脫すべし、幸くは俱に死すこと勿れ」と。驃は困乏し地に坐し、綜は賊を迎うるに叩頭して曰く:「父は年老いたれば、生命を賜らんことを乞う」と。賊の至るに、驃は亦た賊に請うて曰く:「兒は年少く、自ら走る能わん。今、老子は為に走り去らず。老子は死は惜しからざれど、此の兒を活せんことを乞う」と。賊は因りて驃を斫らんとせば、綜は父を腹下に抱え、賊は綜が頭面を斫り、凡そ四創し、綜は當に時に悶絕す。有る一なる賊の傍より來たれるに、相い謂いて曰く:「卿は大事を舉げんことを欲したり、此の兒の死を以て父を救うべかるは、云何んぞ殺すべからんか。孝子を殺すは不祥なり」と。賊は良や久しうして乃ち止まり、父子は並べて免ぜるを得る。


(宋書91-2_徳行)




おめでとう、お前は先に仙堂に登ったのだを言う五斗米道な皆さまにそのロジックが通用しますかね、と言いたいところじゃあったが、ただそんな狂信者なんてごく一部でしょうしねえ。それに、あれは「親が」「子を」殺しながら言うものでもあるし。ううむ。


美しい物語なので、好きは好きなんですけどねー。

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