巻91 孝義伝

龔穎   気骨の蜀人   

龔穎きょうえい遂寧すいねいの人だ。

若いころから学問を好んでいたため、

益州えきしゅう刺史の毛璩もうきょは自らの下で

学者として勤務させた。


が、まもなく譙縱しょうじゅうが反乱を起こす。

毛璩は殺され、配下たちは散り散りに。

しかし龔穎はひとり毛璩のもとにゆき、

号泣の上、葬礼を完璧に取り仕切る。


その気骨を気に入ったか、譙縱、

宴会に彼を召喚しようと探すも、

見つからない。

が、かれの方から出向いてきた。


おぉ、宴に参加してくださるか!

譙縱は龔穎を歓待しようとするが、

どうもそんな雰囲気ではない。


やがて、音楽が奏でられる。

すると龔穎、やおら立ち上がり、号泣!


「国を奉じるお方が亡くなっても、

 共に死すことは許されぬ!


 斯様な気持ちを押し殺してまで、

 盃を掲げ、楽を聴かねばならんか!

 逆賊に追従せねばならんのか!」


おい、ここで、ここで言うかね!?

宴の場で!?


譙縱配下ナンバーワンである譙道福しょうどうふく

龔穎を刑場に引っ張り出そうとし、

そこで処刑しようとした。


しかしながら、譙道福の母、龔氏は、

龔穎の父の姉である。

話を聞き、はだしのままで駆け込み、

龔穎の助命を嘆願した。

こうして龔穎は生きながらえた。


やがて譙縱がしょく王を自称。

龔穎は改めて幕佐として招かれたが、

もちろん応じるはずがない。

なのでついには監獄につながれた。


そこでは首筋に剣を押し当てられて

従属するよう脅されたが、

龔穎の意志はいよいよ固く、

まるで節を曲げる気配がない。


結局譙縱が攻め滅ぼされるまで、

ずっと牢につながれたままでいた。


のちの人間からは称賛を受けたのだが、

かれはその後国に仕えることもなく、

家で死んだ。




龔穎,遂寧人也。少好學,益州刺史毛璩辟為勸學從事。璩為譙縱所殺,故佐吏並逃亡,穎號哭奔赴,殯送以禮。縱後設宴延穎,不獲已而至,樂奏,穎流涕起曰:「北面事人,亡不能死,何忍舉觴聞樂,蹈跡逆亂乎。」縱大將譙道福引出,將斬之。道福母即穎姑,跣出救之,故得免。縱既僭號,備禮徵,又不至,乃收穎付獄,脅以兵刃,執志彌堅,終無回改,至于蜀平,遂不屈節。穎遂不被朝命,終於家。


龔穎、遂寧人なり。少きに學を好まば、益州刺史の毛璩は辟し勸學從事と為す。璩の譙縱に殺さる所為るに、故佐吏は並な逃亡せど、穎は號哭し奔赴し、殯送せるに禮を以てす。縱は後に宴を設け穎を延べ、獲れずも已にして至り、樂の奏ぜらるに、穎は流涕し起ちて曰く:「北面し人に事う、亡きても死す能わず、何ぞ忍びて觴を舉げ樂を聞かんか、逆亂を蹈跡せんか」と。縱の大將の譙道福は引き出だし、將に之を斬らんとす。道福の母は即ち穎が姑なれば、跣にて出で之を救い、故に免ぜるを得る。縱の既に僭號せるに、禮を備え徵ぜらるも、又た至らず、乃ち穎を收し獄に付し、脅すに兵刃を以てせど、志を執うこと彌いよ堅く、終には回改せる無し。蜀の平がるに至るまで、遂に節を屈せず。穎は遂に朝命を被らず、家にて終ず。


(宋書91-1_直剛)




列伝もいよいよ大詰めです。ここからは「親や主人の為に志を貫いた人」のお話が続く感じ。とは言えこの後に続く何人かは「親を思うあまり行き過ぎた行動に出た人」という感じで、ちょっと鼻につくからスルーします。もう一人だけ紹介して次に行くのです。


しかしこのひとかっけえな!

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