謝霊運16 一なる詩の値 

謝霊運しゃれいうんの父、祖父は

ともに始寧しねい県に葬られていた。

またそこには、彼らが暮らした

家や別宅もあった。


なので謝霊運、会稽かいけい郡に籍を移す。

別荘を修繕の上、山を歩き、川沿いに遊び、

幽然たる暮らしの限りを尽くした。


隠者の王弘之おうこうし孔淳之こうじゅんしらと交流し、

楽しみ、ここで死んでも良い、

とまで思うようになった。


一つ詩が出来上がると、

それは間もなく都に届けられる。

貴賤の別なく、誰もが競って

それを書き写す。


ながらくの間謝霊運は

遠近、貴賤の別なく人々に慕われ、

その名は建康けんこう近辺に響き渡っていた。


やがて謝霊運、山居賦さんきょふと、

またそこに自ら注をも付して発表。

自らの思いの丈を綴った。




霊運父祖並葬始寧縣,并有故宅及墅,遂移籍會稽,修營別業,傍山帶江,盡幽居之美。與隱士王弘之、孔淳之等縱放為娛,有終焉之志。每有一詩至都邑,貴賤莫不競寫,宿昔之間,士庶皆徧,遠近欽慕,名動京師。作山居賦并自注,以言其事。


霊運が父祖は並べて始寧縣に葬られ、并せ有せる故宅及び墅にては、遂に會稽に移籍し、別業を修營し、傍山帶江し、幽居の美を盡す。隱士の王弘之、孔淳之らと縱放し娛を為し、終焉の志有り。一詩の有りたるに都邑に至れる每、貴賤に競い寫さざる莫く、宿昔の間、士庶は皆な徧じ、遠近は欽慕し、名は京師に動ず。山居賦、并せて自注を作し、以て其の事を言ず。


(宋書67-7_棲逸)




以前に玉台新詠ぎょくたいしんえいを読んだとき、謝霊運の詩がひとつだけあったのですよね。東陽谿中贈答、東陽とうようのある渓谷でのやり取り、みたいな詩なんですけど。



可憐誰家婦 緣流洗素足

 おいちょっと、あのキューティ☆

 どこの家の子だよ!

 んー、川べりですすぐ、

 そのおみ足ヤバい!


明月在雲間 迢迢不可得

 ああー、けど、あんなキューティ!

 俺にとっちゃ雲間の月!

 とてもお近付きにもなれりゃしねえ!



可憐誰家郎 緣流乘素舸

 あらいやだ、あのハン☆サム!

 どこの家の殿方かしら!

 ああん、ボートに佇む、あのお姿!


但問情若為 月就雲中墮

 したいでしょ? あたしと楽しいこと!

 でもダメ、まだよ!

 月が雲に隠れて、

 見えなくなったら……ね!



これ、読んで「すっげぇコミック詩だな……」って印象になりました。つまり精読というよりは気軽に読んで、楽しむ、みたいなね。で、東陽は色街だったらしく、そうすると、このコミック詩って東陽をプロモートする詩だったのじゃないかしら、と想像してしまいまして。


大詩人として名の売れていた謝霊運に、そういった俗っぽい依頼が舞い込んだりしてたら面白いよなーとか、そんなことをついつい考えてしまうのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る