謝霊運15 志を得ず   

やがて宋國黃門侍郎、相國從事中郎、

つまり劉裕りゅうゆうまわりの仕事に携わったあと、

世子左衞率、劉義符りゅうぎふの護衛役に回る。


が、間もなく使用人の一人が

謝霊運の妾に手を出したのに怒り、殺害。

その罪で免職させられた。


劉裕が皇帝となると、

しんの国公らは爵位を下げられ、侯爵に。

謝霊運しゃれいうんもその例に漏れなかった。


改めて散騎常侍、太子左衞率として復帰。

とはいえ、なにせ謝霊運、

褊激へんげきと評される偏屈者である。

この言葉がほぼ謝霊運専用語として

使われている辺りお察しである。

礼法にもろくろく守らず、朝廷としても

「それでも、文章は凄いからなぁ……」

みたいな扱いだった。とても官僚として

重用できるタマではない。


にもかかわらず、謝霊運自身は

「俺は枢要に参加させられるべき人材だ!」

と思っていた。見事なミスマッチ。

なので自らの官途について、謝霊運は

常にプンスコを抱いていた。


一方で、劉裕次男、劉義真りゅうぎしん

彼は幼い頃から文籍を愛していたため、

謝霊運とは異常にウマが合った。

そんなあからさまなネタフリやめろ。


劉裕が死亡し、劉義符が即位。

とは言え実権はほぼ徐羨之じょせんしらのもとに。

劉義符はおろか、劉義真とも相性最悪な。


謝霊運、ことあるごとに

彼らのやっていることを批判、糾弾する。

結果徐羨之らに煙たがられることとなり、

永嘉えいか郡に左遷させられた。


永嘉郡。

風光明媚な地として有名である。

謝霊運、この地の景色「は」気に入った。

ただ、中央で国をバリバリ取り仕切る、

といった夢を断たれた怒りから、

この地でやったことと言えば、諸県遍歴。

一度出発すると普通に数十日間は

郡府に戻ってこない。

もちろん、その間の民からの陳情は

放置されっぱなしである。

そして自らは出歩いた先で、

その風景を、その想いを詩にあらわす。


そしてご存じ、その詩たちが、すごい。

天は困ったひとに詩才を与えたもんである。


そんな謝霊運、

永嘉郡内を一通り回ったあと、

病を得たと称して辞職を願い出てくる。


これにビビったのは烏衣巷ういこう

若い頃をともに過ごしたメンツ、

謝晦しゃかい謝曜しゃよう謝密しゃみつなどである。

彼らは揃って謝霊運に思いとどまるよう

手紙を書いたのだが、

謝霊運はまるで聞く耳を持たず、

辞職した。




仍除宋國黃門侍郎,遷相國從事中郎,世子左衞率。坐輙殺門生,免官。高祖受命,降公爵為侯,食邑五百戶。起為散騎常侍,轉太子左衞率。霊運為性褊激,多愆禮度,朝廷唯以文義處之,不以應實相許。自謂才能宜參權要,既不見知,常懷憤憤。廬陵王義真少好文籍,與霊運情款異常。少帝即位,權在大臣,霊運構扇異同,非毀執政,司徒徐羨之等患之,出為永嘉太守。郡有名山水,霊運素所愛好,出守既不得志,遂肆意游遨,徧歷諸縣,動踰旬朔,民間聽訟,不復關懷。所至輙為詩詠,以致其意焉。在郡一周,稱疾去職,從弟晦、曜、弘微等並與書止之,不從。


仍いで宋國黃門侍郎に除せられ、相國從事中郎、世子左衞率に遷る。門生を輙ち殺せるに坐し、免官さる。高祖の命を受くるに、公爵を降ぜられ、侯、食邑五百戶と為る。起ちて散騎常侍と為り、太子左衞率に轉る。霊運が為性は褊激にして、禮度に愆多く、朝廷は唯だ文義を以て之を處し、以て實相の許に應ぜず。自ら才能は宜しく權要に參ぜるべきと謂えど、既に知るを見ざれば、常に憤憤たるを懷く。廬陵王の義真は少きに文籍を好み、霊運と情款せること異常なり。少帝の即位せるに、權は大臣に在り、霊運は異同を構扇し、執政を非毀せば、司徒の徐羨之らは之を患い、出だし永嘉太守と為す。郡は山水に有名にして、霊運は素より愛好せる所たれば、出で守りたるも既に志を得ず、遂には意を肆とし游遨し、諸縣を徧歷し、旬朔を踰え動き、民間の聽訟には復た關懷せず。至れる所にて輙ち詩詠を為し、以て其の意を致したる。在郡を一周せるに、疾を稱し職を去らんとす。從弟の晦、曜、弘微らは並べて書を與え之を止めんとせど、從わず。


(宋書67-5_直剛)




すげぇなぁ……(すごい)


評伝とかで経緯は読んでましたが、こうして伝で読ませてもらうと、なんというか、圧倒的謝霊運。この辺読んだあと謝密伝の謝混しゃこんコメント読むと趣が激しくて素敵です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る