鄭鮮之9 劉裕に遊ばれる 

鄭鮮之ていせんし、まあ率直な人である。

劉裕りゅうゆうの前でも、思ったことはズバズバ言う。

なので人々はその物言いに

だいぶビクビクしていたようである。


とは言え、素では温厚篤実。

親しい人については、常に気にかけていた。


また気の向くままに

ふらふらするのが好きであり、

外出先を随行者に決めさせ、

その目的地も聞かないまま、

その場所に向かわせたりもした。


そんな性分であるから、

劉裕にはちょくちょく遊ばれていた。


劉裕が宮廷の中で宴会を開催。

そこには多くの朝士が参集されるが、

なぜか鄭鮮之の姿はない。

そうこうする内に、

席はどんどん埋まっていく。


「なに、鄭鮮之も間もなく来るだろうさ」


そう劉裕が言うのと、ほぼ時を同じくして

こんな知らせが届いた。


「鄭鮮之様が神虎門じんこもんにお越しになり、

 召喚を受けた、と仰っております」


!?


鄭鮮之一人に、

別の時間を指定したようだ。


鄭鮮之の到着に、劉裕は爆笑。

そして鄭鮮之を会場に招き入れた。


鄭鮮之が劉裕に遊ばれるのは、

大体がこのような感じだった。




鮮之爲人通率,在高祖坐,言無所隱,時人甚憚焉。而隱厚篤實,贍恤親故。性好遊行,命駕或不知所適,隨御者所之。尤爲高祖所狎,上嘗於內殿宴飲,朝貴畢至,唯不召鮮之。坐定,謂群臣曰:「鄭鮮之必當自來。」俄而外啟:「尚書鮮之詣神虎門求啟事。」高祖大笑引入,其被親遇如此。


鮮之が爲人は通率にして、高祖が坐に在りて、言に隱す所無かれば、時人は甚だ憚りたる。而して隱厚篤實にして,親故を贍恤す。性は遊行を好み、駕に命じ或いは適す所を知らずして、御者の之く所に隨う。尤も高祖に狎さる所と爲り、上の嘗て內殿にて宴飲せるに、朝貴の至り畢えど、唯だ鮮之を召さず。坐の定むるに、群臣に謂いて曰く:「鄭鮮之は必ずや當に自ら來たらん」と。俄にして外は啟すらく:「尚書鮮之、神虎門に詣で啟事を求む」と。高祖は大いに笑いて引き入れ、其の親遇を被りたること此の如し。


(宋書64-9_排調)




うーん、もうちょい掘り下げられそうなんだけどなー。あえて言えば朝士を集めての宴なら、彼らが登城するのは南の門からなんじゃないか、とは思うのだ。けど鄭鮮之は神虎門、北西部の門にやってきた。となると、ひとり内内の宴的に招かれた、となるのだろうか。


どの門がどんな意味合いを持っているかとか、詳しく把握できると違いそうなんですけどねえ。とりあえず、劉裕が臣下をからかうエピソードってほぼないので、かなりレアなものを目撃した気分です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る