王華3  張邵うぜえ   

喪が明けた頃、劉裕りゅうゆう後秦こうしん討伐を開始。

王華おうかはその事務官として参加。

行く先行く先で抜群の手腕を見せる。


劉裕が皇帝となると

江陵こうりょう劉義隆りゅうぎりゅうが移動。

王華は劉義隆の配下として、

諸務を取り仕切った。


この頃劉義隆は未だ十五歳、

自らの主導では業務を回せない。

なのでその業務はほぼ、

副官の張邵ちょうしょうが代行していた。


ところで王華、節約好きで、

そもそもあまり人と会ったりしない。

そういう性分だったのだろう。


一方の張邵は豪勢なものが好き。

なので出歩くときには、

いつもぞろぞろと手下を引き連れていた。

ちなみに「夾轂きょうこく」とは、普通皇帝が

引き連れている近衛兵などを表すときに

用いられる表現である。

どれだけ張邵の振る舞いが

度を越していたかがわかる。


いっぽうの王華、一台の車に乗り、

従者も二、三人程度。

そして張邵を、しばしば注意していた。


江陵こうりょうの町で両者が行き違うことがあった。

すると王華、わざと相手が張邵だと

気づかないふりをし、従者にいう。


「おやまぁ、ずいぶん豪華な御一行だ!

 これだけ豪華なら、劉義隆様だ!

 そうだ、劉義隆様に決まっている!」


そして車を路側に寄せ、

一団に向け、かしづく。

で、一団の長の姿を確認すると、

これみよがしに驚くのだ。


「なんとまあ、!」


とは言え、そういった振舞いも

奏功しなかったのだろう。

張邵、誰かの葬式に参列した。

で、江陵城に葬儀用の服のまま参内した。


いやいやお前、さすがに待てや。

いくらなんでもひどすぎじゃね?

ついに王華、張邵を糾弾、降格させる。


こうして空いた劉義隆副官の座に、

王華さんが付きました、とさ。




服闋,高祖北伐長安,領鎮西將軍、北徐州刺史,辟華為州主簿,仍轉鎮西主簿,治中從事史,歷職著稱。太祖鎮江陵,以為西中郎主簿,遷諮議參軍,領錄事。太祖進號鎮西,復隨府轉。太祖未親政,政事悉委司馬張邵。華性尚物,不欲人在己前,邵性豪,每行來常引夾轂,華出入乘牽車,從者不過二三以矯之。嘗於城內相逢,華陽不知是邵,謂左右:「此鹵簿甚盛,必是殿下出行。」乃下牽車,立於道側,及邵至乃驚。邵白服登城,為華所糾,坐被徵,華代為司馬、南郡太守,行府州事。


服の闋くらば、高祖は長安に北伐し、鎮西將軍、北徐州刺史を領したるに、華を辟し州主簿と為し、仍ち鎮西主簿、治中從事史に轉じ、歷したる職にて著しく稱えらる。太祖の江陵に鎮ぜるに、以て西中郎主簿と為し、諮議參軍に遷り、錄事を領す。太祖が號の鎮西に進みたるに、復た隨いて府を轉ず。太祖は未だ親政せざらば、政事は悉く司馬の張邵に委ねらる。華が性は物を尚び、人を己が前に在らしむを欲さず。邵は性豪にして、行き來たるの每、常に夾轂を引く。華は出入に牽車に乘り、從者は二三を過ぎざれば、以て之を矯す。嘗て城內にて相い逢いて、華は陽りて是れ邵たるを知らざるとし、左右に謂えらく:「此の鹵簿は甚だ盛んなれば、必ずや是れ殿下が出行ならん」と。乃ち牽車を下げ、道側に立ち、邵が至るに及び乃ち驚く。邵は白服にて登城せば、華に糾せらる所と為り、坐し徵を被り、華は代りに司馬、南郡太守と為り、府州の事を行ず。


(宋書63-3_仇隟)




うーん、これどこまで信じたもんかなあ。王華が張邵を糾弾して代わりに司馬になった、ってラインそのものは動かしようがないけど、そこにいたるまでの道筋はやや悩ましい。


性格っていう曖昧な根拠に基づけば、名族なのをかさに着て豪奢に振る舞う張邵(あと謝晦しゃかい)なんかを質実剛健タイプの劉義隆&王華ラインは嫌いそうではあるから、この降格劇にもちょっとした作為は感じずにおれないのよな。ただどうにも王華伝も張邵伝も胡散臭いのがなあ。


それにしても張邵に対する振る舞い方には、ちょっと晋の海西かいせい司馬奕しばえき廃位後の桓温かんおん謝安しゃあんのやり取りを思い出しますね。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884883338/episodes/1177354054885535249


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