劉義真8 廃位上奏    

以下、徐羨之じょせんしによる

劉義真りゅうぎしん廃位の上奏である。


「国とは、陛下のご血族が

 力を出し合い、盛り立てるもの。

 臣は、そう聞いております。


 そこからすると、弟君の凶忍の性。

 幼きよりのその性分が、

 長安ちょうあんのあの手ひどい失態を招き、

 その醜聞は広く知れ渡っております。


 先帝は、それでもなお弟君の幼さゆえに

 今後の成長を期待されました。

 しかしながら、結果はどうでしょう?

 朝廷の内外に、憂惶が満ちております。


 一度酒を飲み始めれば昼夜もなく、

 その好き放題の発言は、礼に悖るもの。


 先帝が残されゆくお子を思い、

 陛下に直接語られ、

 我々にも手立てを示され。

 にもかかわらず弟君には、

 改まるところがありませんでした。


 かくなる上は、弟君より

 皇族としての特権を剥奪するより

 他ないかと思われます。


 すでに我々がなした苦言は山のよう。

 その多くは、紙にも残されております。


 陛下。弟君のこの傾向は、

 日を追うごとに甚だしくなりましょう。

 そして我々が手をこまねいている間に、

 今度は任された地を放棄し、

 建康けんこうに戻るぞ、とまで仰られた。


 この振る舞いには、異図が

 推測されませんでしょうか。

 この建康で急遽迎撃の軍を立ち上げる、

 などと言ったことが

 起こらねばよいのですが。


 先帝が崩ぜられて日も浅く、

 その悲しみも、

 つい昨日のように思い起こされます。

 だと言うのに、弟君は先帝の

 皇族の出鎮こそが国家の安寧、

 なるご遺志をないがせとされる。


 決めごとをろくろく守れぬことが

 こうして明らかともなれば、

 船に乗って帰って来たいだなどという

 わがままを、

 どうして聞き入れられましょう。 


 それでも、陛下の弟君です。

 我々は懸命に、説得を試みました。


 しかしながら弟君は、

 使者である邢安泰けいあんたい茅仲思ぼうちゅうしを前に、

 我々どころか、

 国や、陛下までもを罵倒された。

 その粗暴な振る舞いも、

 近く市井の耳に届きましょう。


 臣は聞きます。

 小さな芽を摘み取らず、

 つる草の伸びるがままとすれば、

 やがて成長し、斧を持ち出さねば

 切り倒せなくなってしまう、と。


 では国の憂いが深まり、

 国の患いがあらわとなったときには、

 社稷に、いかなる悪影響が

 もたらされましょうか?


 どうか、陛下。

 晋が武陵ぶりょう司馬晞しばきを廃した故事に倣い、

 然るべきおさばきを下されますよう。

 武帝廟の霊威をおとしめずにおくことが、

 ひいては陛下のご家族を

 守ることにつながるのでございます」


そう言い切ると、

徐羨之はついに天を仰ぎ、慟哭した。


こうして劉義真は王位を廃され、

その身柄は新安しんあん郡に移された。




曰:臣聞二叔不咸,難結隆周,淮南悖縱,禍興盛漢,莫不義以斷恩,情為法屈。二代之事,殷鑒無遠,仁厚之主,行之不疑。故共叔不斷,幾傾鄭國,劉英容養,釁廣難深,前事之不忘,後王之成鑒也。案車騎將軍義真,凶忍之性,爰自稚弱,咸陽之酷,醜聲遠播。先朝猶以年在紈綺,冀能改厲,天屬之愛,想聞革心。自聖體不豫,以及大漸,臣庶憂惶,內外屏氣。而縱博酣酒,日夜無輟,肆口縱言,多行無禮。先帝貽厥之謀,圖慮經固,親敕陛下,面詔臣等,若遂不悛,必加放黜,至言苦厲,猶在紙翰。而自茲迄今,日月增甚,至乃委棄藩屏,志還京邑,潛懷異圖,希幸非冀,轉聚甲卒,徵召車馬。陵墳未乾,情事猶昨,遂蔑棄遺旨,顯違成規,整棹浮舟,以示歸志,肆心專己,無復諮承。聖恩低徊,深垂隱忍,屢遣中使,苦相敦釋。而親對散騎侍郎邢安泰、廣武將軍茅仲思,縱其悖罵,訕主謗朝,此久播于遠近,暴於人聽。臣聞原火不撲,蔓草難除,青青不伐,終致尋斧,況憂深患著,社稷慮切。請一遵晉朝武陵舊典,使顧懷之旨,不墜於武廟,全宥之德,獲申於昵親。

仰尋感慟,臨啟悲咽。乃廢義真為庶人,徙新安郡。


(宋書61-8_言語)




徐羨之すげえな……どの口でこれ言ってんだ……。


ここでも、劉義真のせいで長安が落ちた、って論調になってるんですね。ちょっと無茶じゃね? けど無茶じゃないのかなあ。 このあたり、うまく判断できる材料が揃ってない。赫連勃勃かくれんぼつぼつ載記とか眺めるとまた少し見え方が違うんでしょうかね、ってそんなんばっかだな。


史書を読めば読むほど未解決のタスクばかりが積み上がっていく。うーん、この辺なんかにリストアップしておけばよかったな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る