劉義真9 諫言と、死   

劉義真りゅうぎしん廃立については、

張約之ちょうやくしという人が

上表し諫言をなしている。


「伏して思いまするに、先帝陛下は

 天運の元勇躍なされ、この国を統べ、

 ついには極位に登りつめられました。


 この宋という国は長らく続きましょう、

 しかし陛下ご自身が永遠、

 というわけには参りませぬ。

 そのためには、ご兄弟がご健在で、

 国内の各地を統べられる。

 そうしてお互いの意見をよく聞き、

 助け合う事で、晋の穆帝の時代が如き

 平穏の世が実現するのであります。


 劉義真様は幼き頃より

 先帝のご寵愛厚く、また陛下よりも

 ご友愛を受け取ってこられました。


 ならば建康に参上したい、

 という振る舞いにも、心には

 何らかのご明察をもって臨まんと

 されたのではないでしょうか。

 それが臣下の道を違え、

 倨傲のそしりを受ける、と

 分かっていながら。


 劉義真様のご容貌は整い、

 その内面も育っておられます。

 その振る舞いの拙さはいちど措き、

 一度ご兄弟で論を尽くされた方が

 よいのではないでしょうか。


 劉義真様のご境遇。

 毀誉褒貶を浴びせられ、

 建康より離れた地に移され。

 上は陛下よりの

 ご兄弟としての友諠を損なわれ、

 下は臣下に

 恐怖、失望を覚えさせ。

 そのような状況であっても、

 何か思うところがあるのでは。

 そう、感ぜられるのです。


 この大宋は、天意により立ちました。

 しかし生まれて間もない国であり、

 基盤が整い切ったとは申せません。

 なればこそ外藩という枝葉と睦み、

 そして兄弟で手を携えられませ。


 占いによれば、

 兄弟が手を携え合えば、

 春秋のえいが栄えたのと

 同じような結果が

 もたらされる、と出ております。


  陛下、どうか重々ご検討ください。

 なぜ、過去の国々の興亡があったのか。

 なぜ、先帝の振舞いが讃えられるのか。

 なぜ、下々を顧みよと言われるのか。

 陛下が胸襟を開かれれば、劉義真様も

 納得し、任地に戻られるでしょう。


 戻られた劉義真様には、

 知識礼法に富む旧老らを教育係に、

 髦俊英明の若者らをご学友につけ、

 そのご成長を導くのです。


 武皇の諸皇子への想い、

 陛下の弟君への慈しみは、

 この程度の騒動で、そう簡単に

 揺らぐものでありましょうか。


 この蒙昧なる身を地になげうちたれば、

 死はもとより覚悟の上。

 ただ陛下にお聞き遂げ願いたく、

 奏上いたしました次第。

 かくなる上は、これより後に

 我が身が刑に処せられたとて、

 恥じるところは一切ございません」


この奏上の後、張約之は

梁州りょうしゅう府の參軍につけられたが、

間もなく殺された。


そして 424 年、徐羨之じょせんしらは使いを飛ばし、

軟禁先で劉義真を殺した。18 歳だった。




前吉陽令堂邑張約之上疏諫曰:

伏惟高祖武皇帝誕茲神武,撫運龍興,仰清天步,則齊德有虞,俯廓九州,則侔功大夏,故虔順天人,享有萬國。雖靈祚修長,聖躬弗永,陛下繼明紹統,遐邇一心,藩王哲茂,四維寧謐,傾耳康哉之詠,企踵升平之風。

竊念廬陵王少蒙先皇優慈之遇,長受陛下睦愛之恩。故在心必言,所懷必亮,容犯臣子之道,致招驕恣之愆。至於天姿夙成,實有卓然之美,宜在容養,錄善掩瑕,訓盡義方,進退以漸。今猥加剝辱,幽徙遠郡,上傷陛下棠棣之篤,下令遠近恇然失圖,士庶杜口,人為身計。臣伏思大宋之興,雖協應符緯,而開基造次,根條未繁,宜廣樹藩戚,敦睦以道,使兄弟之美,比煇魯、衞,龜策告同,祚均七百,豈不善哉!特願留神允思,重加詢采。上考前代興亡之由,中存武皇締構之業,下顧蒼生顒顒之望,時開曲宥,反王都邑。選保傅於舊老,求四友於髦俊,引誘情性,導達聰明。以武皇之愛子,陛下之懿弟,豈可以其一眚,長致淪棄哉。謹昧死詣闕,伏地以聞,惟願丹誠,一經天聽,退就斧钁,無愧地下矣。

書奏,以約之為梁州府參軍,尋又見殺。景平二年六月癸未,羨之等遣使殺義真於徙所,時年十八。


(宋書61-9_言語)




劉義隆りゅうぎりゅうは、徐羨之らを殺したあとに劉義真の名誉を回復する詔勅をなしています。そうして回復させられたにもかかわらず宋書にはクソ行状が乗るわけですから、まぁ、そのへんについて弁護の余地はなかったんでしょう。


ちなみにその詔勅の中では張約之についても触れています。いわく「あいつら張約之の上奏にビビりまくりでやがった。張約之マジGJ。遺族に褒美を取らせちゃう」。


そして例によってさっぱり拾えない内容も多かったので、うーん、やっぱ左伝史記漢書後漢書の邦訳必要ですね。詔勅読解の練習進めないと何も進みませんわ。

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