第40話 『土砂降りの中で』

 雨が降る。だが激しく降り注ぐ雨粒でも洗い流せないものはいた。


「………………」


 一人雨に打たれながら空を見上げていたラルフは、周りにその視線を向ける。

 周辺一帯に、動くものは何もなかった。地面を埋め尽くす死体から流れ出した血が、降ってきた雨に混ざって血の川を作り坂下へと流れる。

 雨で鎮火した村の家々は、その形骸だけを辛うじて取り残していた。


 土を叩く雨音。それに紛れて聞こえる微かな泣き声に、ラルフはその方向へと足を向ける。

 そこには雨と土に汚れてすすり泣くレナの姿があった。


「おじさん……」


 傍に近づく足音にも顔を上げず、レナは座り込んだまま崩れた家の方を見て話す。


「なんで……こう、なったのかな…………」


 その顔に流れているのが涙か雨かは定かではない。だが彼女の声は酷く震えていた。


「私たち、何も悪いことなんてしてないのに……なんで、だろうね……ッ」


 そんな彼女の問いにラルフは答えない――いや、答えることができなかった。

 悪いのは帝国か、それとも自分か……或いは、こんな世を作った神か。

 ラルフはまた、雨の降り注ぐ雨天をどこか恨めしい目で見上げた。

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