第31話 『彼女の秘密』
意識のないレナを背負ってラルフ達が村に到着すると、心配になって探しに出ていた村長とぱったりと出くわした。
そのまま村長の家にレナを運び入れベットに寝かせた後、ラルフは村長に事情を説明した。
「そうでしたか……そんなことが」
何度も唸りながら話を聞いていた村長は、窓の外に見える森に視線を向けてそう呟く。
ラルフはベットで静かに寝息を立てているレナを見て村長に質問した。
「彼女の……あの光は何だ? あんたは知っていたのか?」
部屋の中に沈黙が下りる。
それから無言で視線を交わしていた二人だったが、やがて村長の溜め息によりその静寂が崩れた。
「……その通りです。レナは……生まれながらの治癒能力を持っている子でしてな」
そう話を切り出した村長は、寝ているレナに視線を向けてゆっくりと語り始めた。
「最初デロンからそうだと聞かされたときは、私も信じてはいませんでした。……それを始めて見たのは、ティアンが村に来て間もない頃……崖から落ちて大怪我を負ったことがあったんです」
「……それを彼女が?」
ラルフもまたレナの方を見てそう聞き返すと、村長が頷きながら答える。
「ええ……全身の骨が砕けて出血も酷く、とても助かる怪我ではなかったんですが……それが一瞬で治りましてな」
俄かには信じ難い……いや、あり得ない話だった。
魔術でも治癒の奇跡に近い効果を発揮するものはいる。
しかしそれは厳密には身体の代謝を加速させ、元々人に備わっている自然治癒能力を上昇させるものであって、傷を一瞬で治すような代物では断じてない。
傷口を一瞬で塞ぐ、砕けた骨をくっつける、病を治すような、いわゆる治癒の奇跡を行使できるのはラルフの知る限り、シロディア教の神官……それも限られた高位の司祭クラスに限られる。
それでもレナのように死に際に直面した人間の怪我を傷一つ残さず治せるかは、正直微妙なところだった。
だが実際にラルフ自身その力によって助かったのだから、レナにそういう力があるという事実に疑問を挟む余地などなかった。
「だからこそ、デロン……レナの父親も彼女をここに連れてきたのでしょ。この国で彼女の力は、あまり歓迎されないでしょうからな……」
「……まあ、そうだろうな」
リヒテ王国は国柄、魔術や魔力による技術を敬遠する傾向が強い。
ましてそれがシロディアの神官でも何でもない只の少女が治癒の奇跡を扱えるという噂が広まれば、どう転んでも火種の元にしかならないだろ。
「ラルフ殿も何卒この事はご内密に頼みます……レナの能力の事を知っているのは、今じゃこの村では私とティアンだけです」
「ああ、それは構わないが……今の状態は大丈夫なのか?」
未だ眠ったっきりのレナを見てラルフがそう聞くと、村長が頷いて答えた。
「ええ……前にもこうでしたから。多分すぐに目を覚ますでしょ」
そして村長がそう話した直後、レナの眉毛が少し動いて瞼が徐々に持ち上がる。
「うぅ、ん……ッ。お早うございますぅ……」
まるで朝目が覚めたかのような少し眠たげな目で、レナがベットから上半身を起こす。
そして周りを見渡し、ラルフと村長の姿を見つける。
「あ、お早う……じゃなかった。私……いつから眠ってたの?」
何となく気恥ずかしくなって、レナは布団を持ち上げ顔を半分隠してそう聞いた。
それに村長が温和な笑みを浮かべて答える。
「なあに、一時間も経っておらんよ……それより、例の能力を使ったらしいな。ラルフ殿から聞いたぞ」
「あ、うん……村長には絶対に人前で使っちゃ駄目って言われたけど……それしか方法が思いつかなくって」
そこまで言ったレナが、急に思い出したようにラルフの方を見て聞いてくる。
「そうだ、おじさん、体は!? 大丈夫なの?」
「ああ、もう何ともない。お陰で助かった……ありがとう」
真っ直ぐレナの顔を見て目礼するラルフに、レナは自分の髪を弄りながら顔を赤らめた。
「あ、いや……そう面と向かって、ありがとうって言われると……なんか照れるね、へへ」
そう言ってはにかむレナを村長が微笑ましげに見ていたとき、部屋の外からノックの音が聞こえてきた。
そしてゆっくり部屋の扉が開き、そこからティアンが中に入ってくる。
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