第30話 『浄化』
「こ、これは……どう、なってるの……」
周囲の惨状にレナが目を見開いて驚く。そして魔犬と自分の血で全身血塗れになっているラルフを発見する。
「お、おじさんっ!? ……ね、ティアン、これは……ッ?」
「俺の……俺のせいだ。俺を助けるために、ラルフが……ラルフがっ!!」
今にも泣き出しそうな声で纏まりを欠いたティアンの話を聞きながら、レナはラルフの傷を調べる。
「こ、これは……酷い」
その左拳は完全に砕かれ、神経が繋がっているのかさえ怪しい。
魔犬の牙で深く抉られた左肩もその筋肉ごと食い千切られて、もうそこから骨が見えてくる状態だった。
そして全身の擦り傷や打撲傷……そして何より出血の量が尋常ではなく、それが確実にラルフの命を蝕んでいた。
「……ティアン、離れて」
眉間に皺を寄せて傷の具合を見ていたレナが、ラルフの前で両膝を折って正座する。
「え? な、何を言って…………まさか!」
「離れて……!」
最初戸惑っていたティアンは、何か心当たりがあるらしく大人しく引き下がって二人から離れる。
そしてレナがゆっくり両手を広げ、ラルフの体を抱きしめた。
「おじさん……必ず助けるら……ッ!」
――ぼんやりとした意識の中。ラルフは自分の体に触れる何かを感じていた。
何とか頭を上げて確認しようとするが、霧でも掛かったように視界がぼやけて、自分の目の前にいるのが何なのかさえ分からない。
――そして、その何かは白く淡い光を発してラルフの体を包み込む。
……ふわっとして自分の体と意識がたゆたう、何とも形容し難い感覚。
その中で、ラルフは自分の体が徐々に軽くなっていくのを感じた。
「くっ……ッ」
口から短い呻き声が漏れる。段々手足の感覚が戻ってくる。
自分の体に感じる人肌の温もりに、ラルフは目の焦点を合わせた。
「……ッ……これ、は」
鮮明になっていく視界に映ったのは、自分を抱きしめて全身を白く光らせているレナの姿だった。
そしてその光は徐々に弱まっていき、やがて完全に消えてなくなる。
同時に、辺りは月明かりに照らされた薄暗い森の姿へと戻った。
「…………おじさん、大丈夫……?」
抱きしめていた腕を解いて、レナがそう聞いてきた。 ラルフは自分の体の状態を確かめる。
……驚くことに、完全に砕けた左拳は難なくラルフの意思通りに動くようになっていた。
また、骨まで見えていた肩の傷も最初から何事もなかったかのように傷が塞がり、抉られた肉すら盛り上がって平時の状態へと戻っていた。
「……ああ、傷が完全に治ったようだが、これは一体……ッ」
「よかっ、た…………」
ラルフの答えにレナが安堵の笑みを浮かべる。
そして彼女は、眠るようにゆっくりと前のめりに倒れた。
「お、おい……ッ、どうした!?」
倒れるレナの体をラルフが受け止める。
少し離れた場所で見ていたティアンも、慌てて駆けつけてきて彼女の名前を叫ぶ。
「れ、レナ! 大丈夫か? おいっ、レナ!?」
だが彼女は目を閉じたまま、ラルフ達が体を揺すっても意識を取り戻さなかった。
「……息はある。とにかく、早く村に戻るぞ」
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