第四章 : 落日のユリカゴ

――導入

 圧倒的な戦力差にも関わらず、リヒテ王国が十年間も帝国の攻勢を凌ぐことができたのは様々な要因が絡む。


 まず帝国との国境沿いを跨ぐ自然の防壁でもあるスタール山脈、そしてリヒテ王国の北と南を分かつウェルデン大河のような守備に適した地形と、シュトゥルガードやヒンテルガードのように要所に立てられた要塞都市の存在は戦況に大きく作用した。


 また、帝国によるテニア王国併合に次ぐ『アジール大陸統一』の基調に危機感を覚えた東王国群が帝国のリヒテ王国侵攻を機に同盟を結成、反帝国連盟である『東王国連盟』を発足し、ここにリヒテ王国が後から加盟する形で『七王国連盟』が誕生した。

 思わぬ連盟軍による東前線での対応に追われたレシド帝国は、自然とリヒテ王国攻略に全力を注ぐことが難しくなる。


 そして特筆すべきことはリヒテ王国独特の騎士、いわゆる『刻印騎士』と呼ばれる騎士の存在だ。

 国柄から既存の魔術や魔道技術を忌み嫌う傾向が強かったリヒテ王国では、独特の魔術体系が確立されていた。その最たるものが人の体に直接魔術的な刻印を刻み、その身体能力を飛躍的に上昇させる刻印魔術である。


 そしてリヒテ王国の騎士は例外なく騎士の位を授かると同時にその刻印を体に刻み込む。それによって、リヒテ王国の騎士は普通の人間を遥かに超える反射神経、筋力、回復能力を備えていた。

 そのため代々続く騎士の家系では、その家門固有の刻印もまた代々受け継ぐ場合もあったという。



 ――レシスト共和国、グラナド市立歴史研究所の所長、リオレン=シモンの著書

『近代歴史概論』、「十年戦争編―戦争の推移」から抜粋――

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