第4話 『崩壊』(4)

 同じ時刻。王都の裏山、王族の谷から続く稜線の山道――人を寄せ付けないその険しい獣道を走る一人の男がいた。

 着ている銀色の鎧は至るところが凹み、繋ぎが外れてボロボロ。中からはみ出た服からも血が滲み出ていた。


「はあ、はあ、かっ、はあはあ…………ッ」


 整ってない呼吸に構わず、男はただ一心不乱に走っていた。少しでも王都から遠くへと離れる……男の頭にはそれしかなかった。


「……っッ!?」


 地面を揺るがす突然の地鳴りに男は足を止めた。そして振り返って崖下に見える炎上する王都の姿を目で捉える。

 王宮の後ろ、そこに天高くそびえ立つ王都の象徴、マウアの塔……それがひび割れ、徐々に傾き始めていた。

 そして塔の上層がぽっきりと折れ、そのまま崩れて地面に落下する。


「………………ッ」


 塔の崩壊によって、王都サリエンの半分が地煙の中に埋もれる。

 その中でもメラメラと燃え上がる炎の光を、男は一瞬足を動かすことも忘れたまま呆然と見つめていた。

 そしてその瞬間こそ、千年の歴史を誇っていたリヒテ王国がレシド帝国によって滅ぼされた瞬間でもあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る