殺意のいばら
電咲響子
殺意のいばら
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ひどく悩んでいるようだな。きみの
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はい、私は言葉を奪われました。
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私の耳には聴こえているようだが。
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はい、私は釈放されてすぐ彼女の家に行きました。殺すために。ですが、再構築された強固なセキュリティゆえ願いは叶いません。考えてみれば当然の話で、妹を殺害した側からすれば簡単に殺害相手の親族の侵入を許すほうがおかしいのです。その後、私は警察を頼るも
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君の悩みは理解した。どうやら君は私と同類のようだ。が、解せない。なぜ私の元へ?
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はい、先生。然るべき場所へは行きました。何度も、何度も、何度も…… 先生。あなたも薄々感づいているはずだ。私がここに来た理由を。私はすでに天涯孤独の身です。そんな私を相手にしてくれる治療機関は存在しません。つまるところ、私はこの国の法律で罰せられることはなく、施設に隔離されることもなく一般社会の中で生活を送ってきました。視察官は極めて事務的で、私に対しあまりに冷たく、それはある意味心地よい対応でした。私は
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いいだろう。しかし条件がある。これはきみの
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はい。
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私は彼女を受け入れた。
粉々に飛び散った頭蓋が周囲を真っ赤に染めている。私が撃った弾丸によって。
私は私を葬ることをためらった。望んでいたはずなのにためらった。
彼女は私の合わせ鏡だ。
彼女の住んでいた部屋の中心に立ち、私の気分は鬱屈する。
「あと少し…… もう少し……」
私は、極めて凶悪に設計された有刺鉄線を越えられず脱獄を断念した彼女の手のひらを見ながら思う。つかむと刃が飛び出る仕組みの鉄線が全面に張り巡らされているのだ。初挑戦で攻略できるわけがない。
綿密な計画を練り、方針を決めたあと命賭けの旅に出て数名脱出可能かどうか。それほどまでに強固なセキュリティが組まれている。
そして私は脱獄に失敗するほうに賭けた。一万円札三十枚を。
△▼10△▼
彼女たちは当初善戦した。賭場は熱狂に包まれた。しかし私は思った。
ここまでだな、と。
彼女はボロボロになった手で最後の扉の鍵をまわす。百八つある鍵をまわす。その勇猛な姿に"脱獄側"に賭けている連中は歓声をあげた。
が、残念ながら脱獄を目指す囚人に"救済"はなかった。
――――――――
私は彼女が貯めた金を借り、その場を立ち去った。
<了>
殺意のいばら 電咲響子 @kyokodenzaki
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