第43話 百合ノ島へようこそ!

<これまでのあらすじ>


 みんな~、百合は大好きー?


 {大好きー!


 ありがとうー! みんなの心の声、ちゃんと届いたよー。


 そんな百合ばかりの百合ノ島も今回で最終回、だから言っちゃうよー、百合は永遠不滅ー!



♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀



 百合ノ島を支配しようとした“深紅の百合”との五番勝負、延長戦までもつれ込んだけどわたしとちいゆが見事勝利ー!


 大喜びする島の人達を見ながらちいゆを抱きしめた。


「よかったね、ちいゆ」

「うん、でもあの人達もよかったよぅ」


 ちいゆの目線の先にはクレちゃんとドレちゃんがいた。


「呉葉は食べ過ぎなのよ、だからお腹が出て来てるんじゃないの?」

「え? そうかしら……ってドレ美! 何を言ってますの!」

「今までは黙ってたけど、これからはバンバン言うからね。呉葉はずばり食べ過ぎ!」

「うっ! しょ、しょうがありませんわ、わたくしが食べたいと思うんですから」

「それ子供の言い分でしょ、そのままだと呉葉からデブ葉になるわよ」

「デ、デブ葉? ドレ美~~! いい加減にしな――ひゃっ!?」

「ほら、わき腹に指先がこんなに刺さるでしょ」

「こ、この~!」

「おっと危ない。ちょうどいいわね、追い掛けっこでダイエットしましょうか」


 前の主従関係のような雰囲気はなく、気心の知れた幼馴染みたいにキャッキャッと追いかけっこをしてる。


「わたし達と同じだね、ちいゆ」

「同じ~?」

「いつも一緒だったけど本当に一緒になった、ってコトだよ」

「そうだね、お姉ちゃん……」

 

 抱きしめるわたしの手をちいゆがぎゅっと掴んだ。


「百合神様に見せて頂いた通りになりましたか」


 いつの間にか島長の燕佐さんが隣に立っていた。


「見せて頂いた通り? ですか……」

「深紅の百合の豪華客船がこの島に現れた晩、百合神様がわたしの脳内に映像を送ってきたのです」

「ど、どんな映像ですか?」


 燕佐さんがドキっと胸がときめく例の笑みを向けてきた。


「この五番勝負の流れ、そしていま目の前にある光景です」


 再びクレちゃんとドレちゃんの方を見た。

 息を切らして両膝に手を着くクレちゃんの顔を楽し気な笑みでドレちゃんが覗き込んでいる。

 

「そっか、百合神様はこうなることを全てお見通しだったんですね」

「ええ、私がクレちゃんに負けるのも知っていました。ただ……あの指先絶頂は予想以上に強烈でしたね」


 言ってから気恥ずかしそうな顔でわたしを見た。


「絶頂で倒れた私の顔……どんなでした?」

「えっ? いえ、その! まったく見えなかったので全然わかりませんーー!」


 両手と首を全力で左右に振る。

 

 意外ー! 燕佐さんでも人の目を気にするんだ……でもちょっと身近に感じたかも。


「姉貴ー!」

「ありがとう、燕奈」

 

 燕奈さんからマイクを受け取った。

 待ってましたの勝利宣言かな?


「島長の燕佐です、この度は深紅の百合との勝負にお付き合い頂き誠に感謝いたします。ご覧の通り、この百合ノ島が勝利しました」


 いっせいに島のみんなが「わーーー!」と喜びの声を上げる。


「そういう訳で負けた深紅の百合は即刻島からお引き取り願います」


 それに「そうだそうだ」「早く去れー」という声がいくつか上がった。


ちらっとクレちゃんを見ると、お馴染みの癇癪が爆発しそうなぐぬぬ顔。

でもドレちゃんの手が優しく肩に載せられると、そのぐぬぬ顔が穏やかな顔になった。


「わ、わかってますわ! 行きましょう、ドレ美」


 そう言いながらドレちゃんの手を取ったクレちゃんが、沈んだ顔の深紅の百合メンバーに向かって歩き出した。


「ひとつ教えて頂けますか?」


 燕佐さんの声にクレちゃんが足を止めた。


「あなたがこの島を支配しようとした本当の目的は何ですか?」


 え? 体の快楽こそ真実っていうのを強制する為にこの島を支配しようとしてたんでしょー? 


「もうこの島には来ないから教えてあげますわ」

「呉葉……」

「いいのよドレ美、それにこれはあなたにも聞いて欲しいことですし」

「え?」


 不思議そうな顔をするドレちゃんから燕佐さんに向き直ったクレちゃんが胸に手を当てて大きな声で喋り始めた。


「わたくしは! この島にいる百合神の力が欲しかったのですわ! そう、百合同士で子供を設けることが出来るこの世で唯一無二の力が!」


 はいー!? 百合同士で子供ー? そんなのありえないよーー!

 ってハッ! そういえば島長の燕佐さんのご両親も女性同士だった……え? え? まさか本当に女性同士で子供作れちゃうの、この島ーーー!!


「女性同士っていうのは違うねー、正確には百合同士!」


 って燕奈さんに心読まれたー!


「なるほど、それでこの島を支配しようとした……ふう、島へ移住申請をするという方法は思いつかなかったのですか?」

「ぐぬぬ! わ、わたくしがそんなお願いするようなことを――」

「島長殿!」


 あ! ドレちゃんが燕佐さんに思い切り頭下げた!


「どうか、どうかわたし達“深紅の百合”をこの百合ノ島に移住させて頂きませんでしょうか!」

「なっ! ドレ美! 何をやってますの!」

「この“深紅の百合“グラシアの呉葉がメンバーに島の掟を守ることを徹底させますので、どうか!」

「ちょっ、ドレ美……」


 初めておろおろするクレちゃん見たー!


「し、深紅の百合グラシアであるこの西坊城呉葉、百合ノ島の掟を守ることを誓います」


 クレちゃんが思いっきり頭を下げたー! 信じらんない!


「前はただ自分の子が欲しいだけでしたの、でも今は今は……」


 クレちゃんが思い切りドレちゃんの手を両手で握った。


「このドレ美との子供がどうしても欲しいのですわ!」

「く、呉葉!?」


 ド、ドレちゃんの顔が真っ赤になって目に涙が浮かんできたー!

 

「私はこの島にあなた方“深紅の百合”を受け入れるつもりはありません」

 

 燕佐さん! もう前のクレちゃんじゃないんだからそんなこと言わなくても……。


「ですが百合神様はどうお考えでしょうか? 受け入れるなら鐘を、受け入れないなら鈴を鳴らしてください」


 うわ、何かシーンってなったんですけど……


 ゴォーーーーン!


 鐘が鳴ったー! 百合神様、クレちゃん達を受け入れてくれるんだ! って、これも百合神様が燕佐さんに指示してたのかも……だって島長といっても勝手に受け入れ決めたらみんな怒るもんね。


――――こうして“深紅の百合”の人達は百合ノ島の一員になりました。

でも住む場所が足りないので、沖に停泊する“深紅の百合”の豪華客船で過ごして貰ってます。

 とはいえ島の一員、ちょくちょくクルーザーでこちらにきてはお食事したり買い物したりと島の人達と馴染んでいってるの。

 五番勝負の時は変態さんばかりに思えたけど、みんな気さくで面白くてとってもいい百合ばかり。

 あ、島民専用メールが来てる?

 えーっとなになに……あー! 空きマンションの改装終わったから深紅の百合の人達の受け入れ始めるんだー! 


「お姉ちゃん、早く話の続きしようよぅ」

「はいはいー」


 食べ終わった朝ご飯の食器を台所に置いてリビングに戻る。

 そこには真面目な顔のちいゆと、居候でいっしょにラーメンを作ることになったパイたんが不安げな顔でこちらを見ていた。

 

「よいしょっと」

 

 ちいゆと向き合う形で正座する。


「こほん、じゃあ続きをするね」


 真面目くさった顔のちいゆが頷いた。


「ここはお姉ちゃんに任せなさい!」

「ぶぅ~! そればっかりは嫌だよぅ!」

「何でよー、どう考えてもお姉ちゃんの役目でしょー!」

「違うよぅ! 妹であるあたしの役目だよぅ!」


 もー! ちいゆは本当に頑固なんだからー!

 でも絶対これだけは譲れないの!

 だってこんな夢のような役目、そう――


「ちいゆの赤ちゃん産むのは絶対お姉ちゃんだからね!」

「だめ~! お姉ちゃんの赤ちゃん産むのは何が何でもあたしなの~!」


 あの勝負が終わった後、燕佐さんがこっそり教えてくれた。

 勝利に貢献したので百合神様が感謝のしるしにあたしとちいゆの間に子供を設けてくれるっていう話。

 だからこうしてあたしとちいゆはどっちが産むかで争ってるの。


「ちいゆー! これはお姉ちゃんからの命令だよー!」

「そんな命令なんか聞かないもん~!」

「あの……もみじ、ちいゆちゃん」

「なに、パイたん? わたしの意見に賛成してくれるのー?」

「違うにゃ、その……もみじ妊娠したらラーメン作る人いなくなるにゃ」

「えー? パイたんが作ってくれるんでしょー?」

「ウチが作れるのは濃厚中華そばだけで、もみじのあっさりラーメンは無理ですにゃ」

「やった~~! これで決まりだね、お姉ちゃん!」


 ううー、わたしのラーメンを食べに来てくれる人たちをガッカリさせることは出来ないよー。

 それにしても悔しいー! ちいゆの子を産めないなんてー! 

 あっ、そうだ!


「ふ、ふたり目は絶対わたしが産むからね! パイたんはそれまでにわたしのラーメンの作り方をマスターすることー!」

「にゃ!?」

「えへへ~、お姉ちゃんの子供産むんだ~♪ 産むんだ~♪」


 ちいゆがにっこりウットリした顔で自分のお腹を撫でている、何かえろい!


「あれ? そういえばお姉ちゃん、どうやって子供作るの?」


 ちいゆがお腹に手を当てたまま尋ねてきた。

 そ、その方法は燕奈さんが身振り手振りで親切丁寧に教えてくれたけど……。

 わっ! パイたんが湯気出そうに真っ赤な顔でこっち見てるー!

 パイたん、多分……ううん、それ以上にえちえちなやり方で作るんだよ。

 ってこんなこと朝から口に出来ないー!


「え、えーっとね、その……今夜寝る前に教えてあげるね」

「わ~いわ~い! やった~! 楽しみだよぅ~!」


 両手を上げてぴょんぴょん跳ねるちいゆを見ながら妙な罪悪感。

 そこでメールの着信音が鳴った。

 ええーっと、移住してくる“深紅の百合”のクルーザーが港に向かってるので集まるように、か。


「深紅の百合の人達、来るんだって。お迎えにいこ!」

「うん!」

「はいにゃ!」


 港には既にお迎えの人が集まっていた。


「おっ、もみちゃん」


 人だかりの中からいぶちゃんが声を掛けてきた。


「聞いたで、百合神様から子供授かる権利貰ったんやって?」

「う、うん、何かねー、あはは」

「で……ど、どういうやり方で作るんや?」


 それ聞かないでー! こんな人混みで言える内容じゃないんですけど!


「ちょっとそれは……」

「お姉ちゃ~ん! 深紅の百合の人達来たよ~!」

「お姉ぇ! はよこっちゃ来い!」


 ちいゆー! いり子ちゃん! ばっちりなタイミングで助け船ー!


 いぶちゃんと一緒にちいゆといり子ちゃんのところへ行くと、大きて赤いクルーザーが波を切ってこちらへ向かってくるのが見えた。


「お姉ちゃ~ん、あれ何やってるの~?」


 言ってる意味はすぐわかった、クルーザーの舳先でクレちゃんとドレちゃんがぴったり身を寄せてキスをしていた。


 見せつけ過ぎでしょー! 用意したマンションに入ってからやって欲しいんですけどー! 


「お~い! お~い!」


 ちいゆが手を振り始めた。

 それに合わせて周囲の人達も手を振り始める。


「あ、呉葉さんとドレ美さんもこっちに手を振ってるよ~!」

「そうだね、じゃさっき打合せしたやつ一緒に言お?」

「うん! お姉ちゃん!」

「いくよー、ちいゆ! いち、に、さん、はいっ!」


「「百合ノ島にようこそ!」」


【百合ノ島にようこそ! 終わり】

 

 エピローグ


 この島に来て5度目の夏が来た。

 わたしとちいゆ、パイたんが働く食堂は毎日が大忙し。

 ちいゆが産んだわたしの子も4歳になり、わたしが産んだちいゆの子も3歳になった。


「おねぇちゃ、待て~」

「つかまえてごらん~!」


 廊下から響いてくるふたりの声とにぎやかな足音。

 

 それはわたしとちいゆの幼い頃、そのものだった。

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百合ノ島へようこそ! こーらるしー @puru

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