第42話 雨降って百合固まる

<これまでのあらすじ>


 みんな~、わたしこそ百合属性200パー! 更には重度のシスコン[もみじ]だよー!


 わたしの住む百合ノ島を支配しようとする深紅の百合との勝負が遂に決着。


 最愛の妹[ちいゆ]にわたしが遂に告白したのー!

 それにちいゆがオッケー桶ケ谷、おまけに感極まったのか絶頂までしちゃった!


 こうして勝利条件の“真の告白”と“心からの絶頂”をクリアー! 

 百合ノ島の勝利になったんだよー!


 って、何この癇癪声?


 あー! 負けちゃった深紅の百合リーダーのクレちゃんが百合パートナーのドレちゃんに八つ当たりしてる!

 もー! 


 もうすぐ最終回なのにかっこ悪いことしないでよー!

 え? わたし今何て言ったの? 最終回?


 ええーーーー!? 何言わせてるの、この作者ーー!

 最終回なんて嫌だよーー! 

 嫌ったら嫌なんだからね! ちょっと作者ー! 聞いて――――


♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀



「ドレちゃん、あなたのせいで負けてしまいましたわ!」


 うわー、クレちゃんがお得意の癇癪で手足をジタバタさせてる!

 深紅の百合リーダーなのにまるで威厳ナシだよー!

 って、ドレちゃんが頭を下げた!? 

 

「申し訳ありません」


 ちょっとー、何で謝るの?


「そんな生温い謝罪で済むことと思ってますの!? わたくしが! このわたくしが直々に勝負の場に出て負けましたのよ、あなたのせいで! クキィー! 言っててますますお腹がグツグツ煮えてきましたわ! まずは土下座なさい! そして1億回頭を下げなさい! 温泉が出るまでボーリングし続けなさい!」 


 もうムチャクチャ! 黙ってられないよー!


「クレちゃん! 何でそんなにワガママ高飛車オホホホホ! なのー! そんなだからドレちゃんも何も言い返せ――」

「ドレちゃんさん!」


 わっ! ちいゆ!? 急にどうしたの?


「何で黙ってい言う事聞いてばかり? クレちゃんさんのこと好きなんでしょ?」


 あ、ドレちゃんがチラっとちいゆを見た。


「あなたには関係ないでしょう」

「ないけどあるよぅ!」

「意味がわからないわ」

「あたしお姉ちゃんと一緒にラーメン屋を始める為にこの島へ来たの、最初は女の人ばかりでヘンな島だな~って思ってたけど、でもみんな優しいしお姉ちゃんと一緒に生活できて幸せだったの」


 ちいゆが何か語りだしたー!


「でも……この島が女の人だけなのがわかったの……女の人同士で恋人になるの、百合っていうんだね、島の名前の意味もそこでわかったの」


 おっとりさんと思ってたけど百合の意味すら知らなかったなんてー! うわーん、そんなおっとりちいゆにお姉ちゃんまたもベタ惚れだよー!


「そのせいだと思うんだけど、お姉ちゃんがお姉ちゃん以上に好きに思えてきたの。でも……お姉ちゃんはあたしの事どう思ってるかわからないし……」


 ちいゆー! それはわたしも同じだったのー! ああー、そう思ってるのに気づかなかったバカなお姉ちゃんをぶってー!


「その話、いつまで続くの?」


 ドレちゃんの言う通りだよー、胸の内に隠しておいたそんなドキドキお話はここでしちゃダメー、お姉ちゃんにだけしてよー!


「あ、ごめんなさい~……じゃないよぅ!!」


 ひぃっ! ちいゆが声を荒げたー!


「そんな時にこの勝負でお姉ちゃんが告白してることになったから、あたし凄く嬉しかったの! でも勝つことばっかりな告白で、も~~~~! 激おこだったよ~!」


 ああぁーー! その話はしないで、ちいゆーーー!


「だからあたしバチコォ~ンと言ったの! こんな告白はダメ! ダメダメ過ぎてお父さんとお母さんが天国からイカヅチ落としちゃうよ! って」


 え? そんなコト言ったっけ? っていうかお父さんとお母さんがわたしにイカヅチ攻撃とかヒド過ぎるよー!


「つまり何なのよ!」

「だからドレちゃんさんはもっとクレちゃんさんに心をぶつけた方がいいんだよぅ!」


 ちょっとちいゆ、泣いてるのー?

 ダメ、もう我慢できない!

 ちいゆの小さな体を抱き締めちゃった。


「お姉ちゃん……」


 あっ……濡れた顔をわたしの胸元に埋めてきた、かっわいいー! ってドレちゃんがじーっとこっち見てる。

 な、何か言わなきゃ。

 

「ドレちゃん、ちいゆに告白する時、わたし凄く怖かったよ。でも本当にして良かったって思ってるの。だってほらこうして――」


 ええ!? 顔を持ち上げたちいゆがキスしてきたー!


「ほ、ほら……大好きだよ、のキスも自然に出来ちゃうし」

 

 えへへー、ちょっと恥ずかしいけど嬉しいなー♪……ってあれ? 何故かドレちゃんおっかない顔になったんですけど。


「あなた達みたいな生温いものじゃないのよ!」

「え?」 

「クレちゃんは!……クレちゃんはね、生まれた時から叱られたことがないのよ!」


 ……叱られたことがない?……それって見たまんま甘やかされて育ってきた?


「甘やかされて育ってきた!? そんな話じゃないわ!」


 ひぇ!? そっか、ドレちゃん心を読めるんだった! 


「叱るのはね、愛情の証なのよ! クレちゃんは……クレちゃんは両親からも、その周りの人からもいっさい叱られてこなかった、愛情を受けてこなかった!……悲しい程……愛情を知らずに生きてきたのよ」


 そっか……だからワガママ高飛車オホホホホ! なんだね……。


「そうよ! だからワガママ高飛車オホホホホ! なのよ! でもわたしには大事な幼馴染で愛する――――」


 いきなり熱くなったドレちゃんが冷静な顔に戻った。


「ク、クレちゃん、すみません」


 ぺこぺこ頭を下げるドレちゃんに例のごとくクレちゃんの癇癪が爆発。


「クゥ~ッ! 誰がワガママ高飛車オホホホホ! ですの! それに地球より重い愛を持つわたくしが愛情を知らずに生きてきたですって? キィィ!」

「申し訳ありません」

「ドレちゃん! あなたのせいで負けた上に、このわたくしをそんな風に思っていたなんて心底っ……心底失望しましたわ!」

「そ、そんな……私は……」

「クキィィ! 何でわたくしの機嫌が悪くなるとみんな辛気臭い顔になりますの! ドレちゃん! あなたもですわ、いつからそうなってしまったの!」

「クレちゃん落ち着いてください!」

「何ですの、この手は! このわたくしを誰だと思ってますの!」


 あ! クレちゃんの手がドレちゃんの頬を叩いた!

 って何これ、急に目の前の動きがみんなスローモーションみたいに見えるんですけど。

 アニメで見る衝撃のシーンみたいなんですけど。

 叩かれたドレちゃんの目が助けを求めるみたいにこっち見てる。


 わたしだったら叩き返しちゃうよ。

 だって大事な人だったら本気で向き合わなきゃ。

 そして抱き締めなきゃ。


 思わず握った両手を胸の高さに持ち上げる。

 ちらっとちいゆを見たら同じことしてる、さっすがわたしの愛する妹。


 あ、ドレちゃんの目が笑った。


 そこでスローモーションが唐突に終わり、ドレちゃんの手が素早くクレちゃんの頬を叩いた。


「べほっ!?」


 ドレちゃんーー! それ力入れ過ぎじゃないー?

 クレちゃんの顔思いっきり真横向いてるんですけど。


「な? なななな?……ふご?」


 鼻血! 鼻血出てるよクレちゃんー!


「誰ってあなたは呉葉(くれは)でしょ。何よクレちゃんってバカみたい」

「ふぇ? ドレひゃん、あなた何を言って……」

「私の名はドレ美、そんな変な呼び方しないで呉葉」

「な、何を言ってるのか……わ、わかりましぇんわ」

「昔はこう呼び合ってたでしょ! まったくバカね、呉葉は!」

「バ、バカ? このわたくしにバカとは何でしゅのぉぉ!」


 クレちゃんがドレちゃんの頬を叩いたー!

 ひっ、ドレちゃんも叩き返した!

 こ、これは殴り合って仲直りなパターン?


「ヒ、ヒドイですわ~~! ぎゃ~~~~ん!」


 クレちゃん泣き出した! 打たれ弱っ! しかもぎゃ~~んって泣くギャン泣き始めて見たよー。

 

「その位で泣かないでよ」

「うるしゃいですわ、このバカ~~~!」


 壮絶なギャン泣きのクレちゃんをドレちゃんが抱き締めた。


「保育園依頼だね、叩きあって喧嘩するなんて」

「うるしゃい、うるしゃい、うるしゃい~!」

「もう、泣き虫なのに気だけは強いんだから」

「な、泣き虫じゃないですわ」

「はいはい、でもね呉葉、今度から隠れて泣くことはないのよ。こうやって私の胸の中で泣いていいんだからね」


 鼻血に負けない位クレちゃんの顔が真っ赤になった!


「わ、わかりましたわ……その、ドレ美」

「あと保育園の時みたいに何でも私に話してね」

「もう! そんな昔のこと、覚えておりませんわ」

「呉葉」

「何ですの?」

「愛してるよ」

「な!……その、あの……わ、わたくしも……ドレ美のこと、愛していますわ」


 うわー! 何かすっごいラブラブな雰囲気ー! って、ええ? 百合

神社の鐘が鳴り出したよー?

 あのふたりの“真の告白”を百合神様が認めたんだー!

 でもこれって勝負が引き分けということに?


「お姉ちゃん」

「え? なに、ちいゆ」

「勝負の判定が終わってからの鐘だから大丈夫だよぅ」

「そ、そっか……」


 さすがちいゆだよー、わたしの不安を読み取っていたー。


「ドレちゃんさんもクレちゃんも幸せそうで良かったね、お姉ちゃん」

「そうだね、ちいゆ」

「あたし達も、もっと幸せになろうね」

「うん」


ちいゆの背中の温もりを感じつつ、両腕でその小さな体を抱きしめた。



次回、最終回「百合ノ島にようこそ!」

 





 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る