幕間

 要注意人物の生死を判定するアイコンが明かりを失っていく。世界という大きな盤を使った彼らとのチェスは私の勝ちに決まったようだ。荒れ狂う大地と海、爆発し崩壊するビル群、低空を飛び交う鉛玉。霰の如く地上へと降り注ぐミサイルの爆撃、高濃度エーテル放射が齎す人工の自然災害……やがて最後のアイコンが消滅。これにてチェックメイトだ。もう誰も私の覇業の邪魔は出来ない。ああ、駄目だ、笑いが止まらない、これ以上に笑える日なんて、もう訪れはしないだろう。

 

 死と言うものは本来微睡んでいくかのように穏やかである。そう比較するならばこの星はまだ死んではいないと言えるだろう。こんなにもまだ、命が煌めているのだ。

 徹底した自浄作用と次世代を担う予定であった高出力のエネルギーリソースをすがめる。まあ、お約束だしな。やってしまった事に取り返しは付かないけれども、とりあえずご愁傷様とでも言わせてもらおうか。単純な話その時代の人間には加減が難しく扱いきれなかっただけ。宝の持ち腐れ、身に余る代物。失敗を言葉にするなら彼らの未熟さを前面に出さないといけないな。名誉の為にもあえて私自らこの場で声高らかに宣言しよう……。

 

 私たちは同じ目標へと邁進していたのだ、故に、故に伝えたい。

 目指す先が間違っていた訳では決して無かった、とね!

 ありがとう諸君、ありがとう。叡智を司る科学者たちよ、ありがとう。

 嬉しいよ、本当に。君たちが居てくれて、本当に良かった!

 はは、皮肉にしか聞こえないかな? それも結構な事だがね。

 

 とは言え起きてしまったことは事実であり、彼らは受け止めねばならないだろう。これから数年は地表、海上問わず猛々しい光が熱量と衝撃波を生み出し、新時代の人間が奇術師よろしくのパフォーマンスを繰り広げる事になるだろうが、特にこれと言って不都合な出来事は起こらないだろうし、半ば予定調和と言ってもいい。


 何故かという質問は、答える気にもならない程にくだらない物だ。愚かな先史の文明が考える結末などこの星にとってあまりに相応しくないし、何より単純に。私が見物したいのは生と死の狭間に喘ぐ人間たちの苦渋のうごめきだ。いくら私が立つ場所がコロッセオに用意された特別席だとしても、すぐ散ってしまってはお話にならない。とどのつまり少しは頑張ってもらわねばこちらとしてもやりがいが無いのだ。

 

 さあ、予想してくれ観客の皆様方。この先何年経てば人間の水準は元に戻るだろう? 歪んでいると言われてもいい、本望だ。私はそれを考えるのが堪らなく楽しいよ。それに歴史が崩壊したならばまた『神』が世界を創り直さなければいけないと思っているしさ。

 

 面倒ではあるがゴミを取り除く作業をしなくては。まず最初に……そうだな、先史文明の知識を持ったままでは、人類圏の復活がにまで早まってしまうかも知れないな。出来る限りのイレギュラーは事前に処理しておくべきだ。高濃度エーテル放射を上手く利用して都合よくシナリオを改変させてもらう事にするさ。密かにこんな事を計画していると知られたら忠義の肆タスク創成の壱ナノマインに妨害されるのは火を見るよりも明らかだけれども、死んでいちゃあ何をする事も出来やしない。人類の存続なんぞに躍起になっていた彼ららしい残念な結果に笑いが止まらない、横隔膜が伸び切りそうだ。

 

 さて、ひとしきり笑った後は適切な運営と管理を行わなければ。これは新たな存在となった私に与えられた初仕事とも言える作業だ。首尾よくこなし認めてもらわねばいけない――

 



 何せまだ、





 この物語は始まったばかりに過ぎないのだから。

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繰機師たちの狂騒歌《ジャンプ・ブルース》 塩化+ @mineralruby37

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