第37話 馬鹿と鋏とイケメンは使いよう
ちなみにあの後、じっくりと二人きりで半殺しどころか九割殺しにされた話については控えさせてもらう。もうあんな地獄思い出したくないガクブル。
さて、長い前置きは以下略、早速伏線の回収といこう。
とは言っても、俺はただラノベを読んでいるだけのオタクであって、ラノベ作家でもなければ、本格的なミステリ小説を読んだこともない。無論、探偵でもない。怪事件を解決した探偵ばりの解説シーンを御所望する方々には、まず無理だと先に断っておく。
それに、あまりにも不確定要素が多かった。何度も言っているように、結局は久遠自身に変わろうという意思がなければ成り立たない話だったんだ。
最後の最後で他人任せの解決法、納得するにはさぞ理屈にかけるからな。
まあ、ともかく。
これは所謂、後談というやつだ。
「ああいうことをするなら、あらかじめ教えて欲しかったね」
「何言ってんだ。ちゃんと教えたろ」
紫音が俺の家に遊びにきた日。お前の連絡先を教えてもらって、
「『全部ぶっ壊して真実見せてやるから、そのあとはどうしたいか好きに決めろ』かい?」
「ああ」
「まるで脅迫電話じゃないか」
「簡潔に伝えようとした結果そうなった」
まあ嘘である。誰がお前なんかにいちいち説明してやるかよ。
こいつは根っからお仲間大好きなやつだ。別にあらかじめ久遠の本性を教えなくても、関係ぶっ壊せば、また作り直すってわかってたしな。
ちなみに今、俺は市川と駅前のファストフード店にいる。呼び出された。
当然といえば当然だけど、俺が市川に電話したことで、逆に市川に俺の連絡先を教えたことになる。しくった、着拒しとくんだった。
「てか、お前の方こそ気付いてたんならそれを言えよ」
「ちゃんと言ったじゃないか。校外学習の時、バスで」
そう、何を言おう市川のやつ、最初っから久遠が疎まれる危険性に気付いてたんだ。
俺を久遠から遠ざけようとしていたのは、別に俺をグループから排除したかったわけじゃなく、察知していたがゆえの言動だったんだと。誰が分かるか。
となると、久遠への優しさを口実にしてグループを守ろうとしていたってのも勘違いだろうな。というかこっちは、単なる視点の違いだ。
俺は久遠を通してグループと繋がっていたからこそ、久遠の存在を特別視して、グループの人間だという認識が薄かった。けど市川にとっては、久遠はあくまでグループの一員という意識だったんだろう。
よく思い返せば、こいつだけはずっと久遠の存在を意識していたしな。
あとは、俺が久遠の過去の話を聞いた時の言葉。
——貴方も、同じことを言うのね。
貴方『も』と久遠は言った。
つまり、俺より前に指摘したやつがいる。それもたぶん市川だ。
そのことに気づいたのは、まあほぼ偶然というか。
久遠の本性を曝け出させることになれば、久遠の孤独は避けられない。俺に気を遣ってやる義務などないとしても、問題を解決しても問題が残るなんて後味が悪いだろ。
それでどうするかって考えたときに、ふと思い至った。
まあ、アフターケアも大事だしな。買ったタペストリーに穴が空いてたのに、受注生産品だから返品交換不可とかだったら俺だって問答無用でキレてるだろうし。
「で、なんで休日に男子二人でデートしなきゃいけないんだ?」
「これでも僕は、君に感謝しているんだ。僕じゃ西園さんを変えてあげられなかったから」
だから、市川は状況の停滞を望んでいた。久遠自身に変化を与えられなかったから、解決ではなく、問題の先延ばしに切り替えた。そんなところだろう。
市川が何をもって久遠の異変に気づいたのかは知らないし、もし暗いバックボーンがあるのだとしても、イケメンの苦悩など知りたくもない。
「そりゃどうも。けど感謝してるならほっといてほしいな」
それに、お礼がしたい、なんてガラじゃないだろ。
「建前はいらねぇよ。手早く終わらしてくれ」
「別に君を悪く言いたいわけじゃないよ。ただ、悪かったと謝りたいんだ」
「謝る? 何を? 生まれてきたことなら一生俺の前に姿見せるな。それで許す」
「君も存外に口悪いんだね。そうじゃなくて、別れろなんて強要したことを、さ。君から西園さんに対する好意を感じられなかったのは嘘じゃないけど、君もまた西園さんの危うさに気づいていたとは知らなかった」
いや、そのときはほとんど気付いてませんでした。ただ個人的にウザかったから反発しただけです。なんて言えるわけない。
「それを口実に気分を害することを言ったのは謝罪するよ。ごめん」
そのために呼び出したってか。律儀なこった。
「別に気にしちゃいない。謝罪されようがされまいが、お前が嫌いなのは変わらん」
氷を噛み砕きながら言うと、苦笑いして肩を竦められた。
「話は終わりなら、俺は帰るぞ」
「ああ、休日に呼び出して悪かったね」
「まったくだ」
これでもし不在届がポストに入ってたら訴えてやる。
さっさと食べ終えたゴミを捨てて、階段を降りていく、その手前、
「そうだ、栄」
「なんだよ。話は終わりじゃなかったのか?」
「今までみたいなグループ活動のときは、また西園さんと来てくれないか? もし予定がないんだったら、昼休みとかも……君は西園さんの今の性格を知っていたみたいだけど、正直、僕もどう接すればいいか掴めてなくて」
それって、体のいい繋ぎ役じゃんかよ。
「……ないな」
「え?」
「友情ごっこはお仲間だけでやってろ。それに俺は、もう久遠の——……」
俺は、久遠の。
「栄?」
「ンでもない。じゃあな」
今度こそ階段を降りて、店を出た。
そしてふと、思う。
俺は今、久遠の何なんだろうな……。
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