第28話 隙あらば自分語り。略して隙自語。

 まだあの時の俺は、社交的な付き合いってのと、友達ってものの区別がついてなかった。え、その年じゃ当たり前だろって? そりゃそうだけど、マジレスやめてくれ。


 ともかく、だ。


 みんなと友達としてなかよくしましょう。助け合いましょう。優しくしましょう。

 まあ、生きてりゃ一度は耳にする台詞だろ。だよな、小学生に対する社交性の教育なんてたかがテンプレで底が知れてるし、教員が変態じゃない限りどこも変わらない。


 俺はそんな常套句を真に受けて、小学生の時はお優しい人だった。

 皆分け隔てなく接して、困っている人がいれば手を差し伸べて、なかよくやっていた。それはもう、今思えば吐き気がするくらい気持ち悪いやつだったさ。


 とはいえ、別にクラスの中心に立ってとやかくするような性格じゃなかった。クラス委員長になったこともないし、運動会とか文化祭で代表をしたこともない。四年か五年から始まった委員会なるものも、たしか給食委員で地味な流れ仕事やってた気がする。


 集団を嫌うようになった原因はあっても、元々陰に住む素質が高かったのかもな。


 だからやったことと言えば、プリントの配布を手伝ったり、黒板消すの手伝ったり。あとはそうだな、小学生の時はそこそこ頭いい……っていうよりかは、あの程度のことだと要領がいいって言うべきか。だから勉強ができる方だったから、わからない人に勉強を教えたりもしてた。は? いや嘘じゃねぇよ。昔は頭良かったんだからな。

 っても、昔の事すぎて一つ一つは覚えてないけど、そんな細々としたことばかりだ。


 で、ある時からだ。俺から自主的に助けているうちに、今度は周りからお願いされて手伝うようになった。


「プリント配るの半分手伝って」


 とか、


「黒板の上の方、消すの手伝って」


 とか、


「宿題のここわからないから教えて」


 とか。


 背が高かったのかって? いや、二個目の例えはほとんど女子からだったな。でも小学生の身長じゃ男子でも上まで届かないから、踏み台借りてきて手伝ってた。


 全然嫌とは思わなかった。むしろ頼られることに喜びさえ感じてたまである。たとえそこに感謝されるだけっていう、感情の見返りしかなかったとしても。


 概して人間、頼られるっては、それだけで承認欲求が満たされるもんだからな。当然といえば当然な感情だったと思う。


 あとはほら、教師に褒められるから続けてた。子供ってのは何かと褒められたがるものだし、褒めれば伸びる。教師がそれを本心から思っていたのか教育の一環としてやっていただけかは知らないけど、それも不純ながら理由のひとつだった。


 もちろん、今じゃ俺が勝手に自己満足してただけだと思ってる。だってそうだろ、俺は教える手間を割いて悦びを得ていたとしても、相手にはメリットしかない。不公平は嫌だし、自分が不利益を被るのなんか尚更にだ。


 俺の座右の銘の一つに、『等価交換』ってのがある。

 損得勘定で、自分が利益を得れば裏があるんじゃないかと疑わずにはいられない。百歩譲って得なのははいいとしても、損するのだけは無しだ。善意プライスなんて御免蒙る。


 ……まあ、今の俺の話はいい。昔の話を続けよう。


 とは言っても、残ってるのはほとんど結論だけだ。

 それからもずっと優しかった俺は、ずっと頼られ続けた。

 面倒ごとを頼まれても、二つ返事で手伝っていた。

 だってそれが優しさで、助け合うってことだから。

 で、そのことを改めて考えた結果、優しくするのをやめた。

 お願いされても、頼られても、全部断った。

 そして今の俺が出来あがりました、っと。

 めでたしめでたし……いや、めでたくはないか。

 まあ、そういうことだ。




「……はい?」


「なぜ首を傾げる?」


「今の話を聞いていると、そのまま続けていく流れにしか思えないのだけど」


 あ〜……うん、まあそうかもしれない。

 今ので分かれってのは、現代文のテストの『最も適当な作者の気持ちを答えなさい』で満点を取るようなものだ。失敬失敬。


 でも、考えれば答えには辿り着ける話だ。

 今の俺が過去の悦びを自己満足だって思ってるように、当時の俺の優しさは、全部自己満足してたから成り立ってるんだ。だって、


「俺はずっと、周りから都合のいいやつだと思われてただけなんだからな」

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