第23話 確率機? ああ、あの二百円ガチャのことね
「それで、どんな感じ?」
「何回かやってみたけど、さすが新作だね」
フィギュアでよくありがちな、二本アームの橋渡し系。アームパワーなり爪の角度なり、色々とウザく難しく設定されているらしい。
「ポール外すか?」
「いきなりそれはダメでしょ。あくまで最終手段」
「手段としては認めるのな……じゃ縦ハメで」
テンプレの設定には、当然テンプレの攻略法がある。特に手に汗を握るような熾烈な戦いを繰り広げるわけじゃないので、黙々と進めていこう。
プレイしていると、視界の隅を久遠が通り過ぎて行った。両替だろうか。
「ポールのゴムに引っかかってるね。もうちょい手前かも」
「おう」
幅が若干狭めで、狙いどころがシビアである。一筋縄では行かない。
続けてプレイしていると、また久遠が通り過ぎて行った。あっちも苦戦しているらしい。
「あ、沼ったな」
「店員さーん、初期位置お願いしまーす」
その後、ようやく角がポールの間にハマる。あとは奥にずらしていくだけだ。
苦戦しつつプレイしていると、またまた久遠が通り過ぎて行った。
「ナイス位置。さすが彩也」
「やっと掴めてきたってとこだ。設定ギリギリ過ぎだろ……じゃなくて!」
いやおかしいだろ? どう考えてもやらかしてるだろ?
主にケモナーらしきお嬢様が一人、沼にハマってるだろ!
「待て待て待て久遠、さっきから何やってるんだよ」
「ちっ、違うのよ。さっき隣でやってた人が一回で取れてたから……」
なにが違うんですかね。明らかにサクラか偶然取れただけだろそれぇ。
「無闇矢鱈に掴めばいいってもんじゃないだろ。確率機なんだからそれが正攻法だけど、それじゃ店員の思うツボだっての」
「確率機……って、なによそれ」
「筐体に上限金額が設定されてて、それに達するとアームパワーが最大になって、景品が掴めるようになるってやつ。アキバの休日って考えりゃ、四、五千円くらいだろ」
「意外と安い……のかしら?」
こんのお嬢様は。絶対ギャンブルやらせたらダメなやつだ。
「やり方によるけど、こんなん二百円あれば取れる」
「勝手にどっか行っちゃったから取っといたよーっと。これ取るの?」
と、そこにゴスロリ助手の紫音が登場。ちょうどいい。
「どう見る?」
「タグはちゃっかりテープで固定されてるから狙えないね。振るでいいんじゃない?」
というわけで、とりあえず百円捨てて動きを見る。三本アームの確率機には、多少の揺れと捻れが存在する。それを把握するために初手は捨てるのが俺のやり方だ。
あとはわざとアームの中心を落とし口の方に寄せて、キツネを掴むだけ。するとアームバランスが崩れた状態で掴み上げ、反動にうまくアームの離すタイミングが合えば、
「お、運がいいね」
勝手にアームが景品を落とし口に投げ入れてくれる。
「まあ、こんなもんだ」
中学の頃に空にした筐体がまさにこの形のだった。意外と身体が覚えているもんだ。
「これでも元ガチ勢、ナメてもらっちゃ困るな」
「そうそう、どれだけボクたち二人で苦難を乗り越えてきたことか」
限定グッズに朝から行列に並び、閉店間際まで格闘した日々。なんと懐かしきことか。
「彩也とボクにかかれば」
「取れないものはない、ってな」
おお、久々に決まった。当時ハマってたアニメ真似て作った決め台詞。
今思えばくっそ痛いしダサいけど、つい反射的に乗ってしまった。
「不本意だけど、貴方たちがカッコよく見えるのはなぜかしら……」
「残念ながら、雰囲気に酔ってるだけだろうな。ほれ、持ってけ」
景品口から取り出したキツネを久遠にフライングダイブ、基、放り投げる。
「貴方が取ったものでしょう。なぜ私に?」
「はぁ? そこ空気読むとこだろ普通。てか俺にぬいぐるみが似合うと思うか?」
断じて否である。似合わな過ぎて不協和音発するまである。
「いいから貰っとけ。クレーンゲーマーってのは往々にしてゴトン病ってのにかかっててな、要らないものでも取れそうだと取りたくなるんだよ」
さて、俺も自分の分のフィギュア取りに行くか。途中までやって放り出したのは紫音が持って行ってしまったし。姑息なやつだまったく。
「俺らまた取ってくるから、十分くらい時間潰しててくれ」
「え、ええ、分かったわ」
手元のキツネを見つめる久遠は、ふとそれを胸元もふっと抱きしめて、
「これ、ありがとう」
初めて、小さく微笑んで見せた。
「——」
あ、やべ。ギャップ萌えで尊死するかも。
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