第22話 クレーンゲーム? ああ、あのオモチャ自販機のことね
特に用事がない時、アキバですることと言ったらなーんだ?
ゲーセン巡り。これに限る。
「んじゃまあ、行くか紫音」
「二人一緒なのは久々だね」
壁一面が赤一色に染まった巨塔。久々に相見える俺らの宿敵だ。
「貴方たち、なんなのよその真剣さは……」
呆れたふうに後ろからぼやかれるけど、逆に言わせていただきたい。
「真剣でなにが悪い? 遊びは本気になってこそだろ」
遊び如きに本気になるのはバカらしい?
そう思うなら大いに結構。それがお前の限界だ。
けどな、そのたかが遊戯にガチで取り組んでいるやつがいれば、そいつらにしか見えず知りえない境地があり、多大な代償をかけるだけの価値を感じられるというもの。
そう、カードゲームに大会があるように、テレビゲームがスポーツになるように。
じゃあクレーンゲームに本気出しても、なんらおかしくないだろう——ッ!
今は最盛期の中学の頃ほど通っているわけじゃないけど、数十ものゲーセンが密集したアキバに来たからには、行かないという選択肢はない。
「それにこの店は、特に思い入れがある場所なんだよ」
「あったねー。デカいぬいぐるみの筐体を空にするまで帰れないって縛りつけたの。まだ中二のときだったっけ」
「全部取ったはいいけど、数多すぎて泣きながら帰ったもんな」
「そうそう、あと持ち帰ったら取りすぎって怒られて、家に置き場所なかったから全部店に売ったんだよね」
たしか当時、人気急上昇中のヒロインキャラの寝そべりぬいぐるみだった。収支だけで見れば余裕でプラスだったけど、帰りが辛すぎて二度とやらないと誓ったほどだ。
「とりあえず、貴方たちが今よりバカだったのは分かったわ」
「あの頃はまだ技術が拙かったからな。バカな手打って何度無駄な散財をしたことやら。そう思うと、よく成長したもんだ」
「話が噛み合っていないのは気のせいかしら……」
ともかく、一度プレイしてみれば楽しさを理解してもらえよう。
紫音を先頭に筐体同士の狭い間を抜けていくと、後ろから服をくいくいと引かれた。
さながら亀が顔を甲羅の中に引っ込めるように、身を縮こめた久遠が言ってくる。
「本当に、この中に何時間もいるつもりなの……?」
「店によるな。神台見つけられりゃ長居するし、悪けりゃ十分経たずに出ることもある。気分悪くでもなったか?」
空気の循環は人が密集すれば当然悪くなる。熱中しているうちは感じないことが多いけど、ふと気づいた時には酷い頭痛が、っていうのもあるあるな話だ。
「気分というか、少し耳が」
「ああ、そっち」
上のレーシングと音ゲーエリアに比べれば序の口もいいところ、っていう話は初めての久遠には通じないか。最初は俺もそうだったし。
「キツかったら出るぞ」
「それは貴方たちに悪いわ。私に合わせてたら行きたい場所も行けないでしょうし」
ふむ、いつもならズバズバ物申してくるけど、紫音がいるから遠慮しているのか?
初めて俺らが来た時、どうしてたっけ……ああ、そうだ。
「なら、これで」
「えっ、ちょっと彩也く——」
首にかけていたヘッドホンを、すっぽり久遠の頭にはめる。最新式のノイズキャンセリング機能付きだ。うるささ対策にはうってつけだろう。
機械的なファッションが似合わな……いのは、この際どうでもいいとしよう。
「ゲーセンいるうちは使ってていいから。サイズは自分で調節してくれ」
「ええ……あ、ありがとう」
熱気のせいか、心なしか顔も赤い。最近の温暖化は大変なものだな。
これでようやくスタートラインに立てた。
紫音はいつの間にかいなくなってるし……あの自由人め。
「とりあえず両替して、書かれた金額入れれば遊べるから」
小銭はコミケ用に常備しているのを持ってきたから、俺は両替なしでいいとして。
当たり前のように一万円札全部を百円玉に替えようとしていた久遠を慌てて止めつつ、適当に色々な筐体を見て回る。と、
「……」
ふと足を止めた久遠が、とある筐体をじっと見つめていた。
どれどれ中身は、動物のデフォルメぬいぐるみ。あら可愛い。
「それ欲しいのか?」
「いえ、別に……アニメの景品ばかりだったから、見知ったものがあって見ていただけよ」
の割に、全然前を動こうとしてませんけど。
今出ているのはキツネのぬいぐるみ。もしや、キツネ大好きなのか? いい趣味しているではないか。キツネ耳っ子はいいぞ、尖った耳と尻尾のもふもふ感がたまらない。
でもこれはあれだな、俺がそばにいると強情張ってプレイしないパティーンですね。
いい感じに紫音が来て、離れる口実でも——
「彩也ー、プライズの新作出てたよ」
というわけで、予定調和。噂をすればなんとやら。まあ影ってのが正しいことわざなんだけど、ラノベとかだとよくそういうじゃん。
「おう、少し行ってくるから適当に見ててくれ。なんかあったら連絡よろ」
「ええ分かったわ」
とてもとてもキツネにご執心なようで、食い気味に返された。
せめて、泥沼にはまらないことだけでも祈っていよう。
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