第7話 長くなりましたが、お家回はこれにて終了です。

「駅まで迎えが来るんだったか?」


「ええ、もうすぐ着くって」


 当然のように重い荷物持ちをさせられながら、久遠と駅までの道を歩く。


 夕方前のこの時間帯、まだ梅雨前だというのに強い日差しはことごとく俺の体力と気力を奪っていく。隣の久遠はちゃっかり折り畳みの日傘をさしていた。ずりぃ。


「なによ、その目は」


「別に、一周回って尊敬してたところだ」


 嫌がらせとかじゃなく、全くの素でその対応ってとことかな。


 どうせなら自転車引っ張ってくるんだったな、なんて思いつつ、けれど気づいた時には道のりも半ばほど来てしまっていた。


「あれよ」


 スリップダメージでHPを九割ほど消費し、ようやく駅に到着。


 日傘の下から優雅そうに久遠が指差した先に目をやると、ロータリーに留まった黒塗りの外車が一台。と、その前に燕尾服を着た二十歳くらいの女性が立っている。


「あの人は、久遠の付き人かなんかか?」


「まあ、そんなところね」


 専属の侍女がいるとか、知っているけど改めてお嬢様なんだなって思い知らされる。


 しかし、本物の美人だな。ショートカットの金髪に、遠目でも分かる鮮やかな碧眼。長身で長い脚。メイド服とか着せたらギャップ萌えしそうだし、男装させたら男の俺でも惚れる自信がある。あ、俺ホモじゃないよ。ホントダヨ。


 そこそこの距離まで近づくと、侍女の人が気づいて寄ってきた。


「お帰りなさいませ、久遠様……そちらの男性は?」


 あ、やべ。そういや女友達の家に泊まっている設定だったっけ。


「友達のお兄さんよ」


 なんて誤魔化そうか焦ってると、横からフォローが入った。

 さらりと嘘言ってのけやがった。ありがとよ。


「あ、ども。妹が疲れて寝ちゃったんで、一応代わりに」


「ご足労、ありがとうございます。お荷物の方もお預かりしますね」


「あ、はい」


 秘儀・初対面の人と話すと最初に「あ」が付いちゃうやつ。

 治したいとは思ってるけど、ほんと無意識に出ちゃうんだよ。


「それじゃあさ……お兄さん、送ってくださってありがとうございました」


 今、ナチュラルに名前呼びそうになったろ。


「ああ、く……西園さんも、気をつけて」


 そして俺も、ナチュラルに名前呼びそうになりました。ほんともうグッダグダ。


「では、妹様によろしくお伝えください」


 さっさと久遠は車に乗り込み、侍女の人も一礼すると去っていった。

 なにも言えず突っ立っていた俺がなにを考えていたかというと、侍女の人に見惚れてました。よく分からないけどとりあえずごめんなさい。


 久遠の高貴さ漂う美しさとはベクトルの違う、怜悧そうな大人っぽい美しさというか。

 こんな年下の俺にまで敬語使って、どっかの毒舌クラスメイトとは天地の差だ。


「まあいい。帰るか」


 ■■■


 んで、これは部屋に戻った後の余談なんだけど。


「なんだこりゃ?」


 ベッドの上にトランプのケースが落ちていた。

 家にトランプがあること自体は全然おかしなことじゃない。どっかしら探せば、うちだって一つや二つ見つかるだろう。


「落ちてたのが出てきたのか……?」


 それを久遠が見つけて、置いといてくれたとか?


 見覚えのないトランプ。使う機会がないだろうけど、しまっておこう。


 ベッドから甘い匂いがふわりと漂ってきたことは、俺以外誰も知らない。

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