第3話 ご都合主義な家庭環境だって?俺も思った

 週末。土曜日の朝だ。

 俺は家から自転車通学、久遠は家から送迎車なるもので通学しているため、一度俺の家の最寄駅で待ち合わせることになった。

 無論、駅にも黒塗りの送迎車で来た久遠を連れ、今は家に向かっているところだ。


「それで、貴方の家に行って何をするつもりかしら?」


「どうせ歩いて十分かそこらなんだ。着いてからのお楽しみってことで」


「いきなり家に誘うなんて、デリカシーがないのかしら貴方」


 確かに自覚はしている。でも好きにしろって言ったのはそっちだ。よって社会的には俺が悪くても、実際に非があるのは久遠の方だ。


「というか、久遠の方こそよく許してくれたな」


「普通だったら許されないわよ。だから親にはクラスメイトの女子の家に行くって伝えておいたわ。まあ別に、あの親なら言わなくても行かせてくれるでしょうけど」


 やけに刺々しい言い方だな。そういう年頃だし、親と喧嘩でもしているのか?


「ほおん。よく分からんけど、お嬢様もそういう嘘は使うのな」


 駅から大通りに出て、しばらく歩いた後、住宅街へ。


「ていうか、その大仰な荷物はなんなんだ?」


 さっきから久遠の細い身体を右へ左へと振り回している、チャックが閉まりきらないくらいに中身が詰め込まれた、高そうな革のボストンバッグ。おかげで歩くのがだいぶ遅い。


「荷物は荷物よ、というか」


 見兼ねて足を止めて振り返ると、目の前にずいっと荷物が突き出された。


「貴方が持ってこさせたのだから、貴方が持つのが筋でしょう」


 そうなのか……? いや、歩くの遅いし、どの道持つつもりだったからいいか。


「はいよ。って、重いなこれ。まじで何持ってきてるんだよ」


「何って、貴方が持ってこいと言ったんでしょう。逆に何よそれ」


 そりゃ、持ってくるように伝えたんだから知っているはずだけど、


「着替えだろ? 何言ってんだ?」


「そうじゃなくて、何のためにって聞いているのよ……!」


 相当疲れていたのか、罵倒にあまりキレがない。


「まあ、それも後でのお楽しみってことで。持つからほれ、ハリーハリー」


「くっ……あとで、覚えてなさいよ……」


 ■■■


「そういえば、ご両親や兄弟はどうしているの?」


「今日はっていうか、今日も家にいないな」


 言い直すと、理解不能だと久遠は首を傾げてきた。別に、言葉通りの意味だ。


「うちの親、旅行好きでさ。国内外問わずよく飛び回ってて家にほとんどいないってわけ。四つ上に大学生の姉がいるけど、そっちはそっちで一人暮らし」


 つまり家には誰もいない。実質、今は一人暮らしである。最高。


「ま、そういうことだから気楽に入ってくれ」


「むしろ危険が増してるんだけれど……お邪魔します」


 玄関を通し、一先ず二階の俺の部屋に案内する。

 扉を開けるや否や、久遠は部屋を見渡し、


「うわぁ」


 と、驚きの声を漏らした。


「……なにかしら、この気色悪い部屋は」


 それはもう、嫌悪と侮蔑と忌避と、有りと有らゆる負の感情を込めた驚きの声を。


 俺の部屋だけど、特に変わったものを置いているわけじゃない。折り畳みベッドに本棚、壁際にデスクがあって、中央にローテーブル。その前にテレビが置いてあるくらいだ。

 あとは壁にタペストリーと、本棚にはフィギュアが幾つかおいてある。缶バッジやアクキーを壁に飾るためのお手製コルクボードもあるぞ。


 というわけで、特に紹介してこなかったし久遠に直接伝えてはこなかったけど、不肖わたくし栄彩也は、オタクであることをここに発表いたします!


 いやさ、隠す気はなかったんだけど、ほら、これといって言い出す機会がなかっただろ? 


 計画のこともあったし、どうせならサプライズ——


「あの、久遠…………さん?」


 は、見事に失敗したようですね。


 一歩も部屋に入ろうとしてこないどころか、後ずさっているまである。


「貴方、頭おかしいんじゃないの? いえ、おかしいからこんな部屋作ってるのかしら」


「おい待て。大いに待て。何を以ておかしいと断ずる?」


「全部よ全部! 壁一面に女子ちりばめているなんてただの変態以外なんだっていうの?

 それに奥のやつなんかほとんど、は、はだ……!」


「奥ってどれだ?」


 たくさんあり過ぎて分からん。


「もういいわ! 帰る」


 なんか逆切れされたんだけど。てかマジで帰ろうとしてるんだけど!


「分かった、待て! ちょっと待て! 五分そこで待ってろ」

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