第2話 異性の名前呼びのハードルの高さと言ったらもう……ね?
「ねぇねぇ、西園さんが彼氏作ったってマジ?」
「私も聞いた。しかも相手はあの栄だって」
「まじか。なんであんな冴えないやつを——」
エトセトラエトセトラ。
さすが高校生の情報漏洩の速さ。
西園の嘘告白を受けた翌日、教室入るなり視線が集まる、っていうか睨まれるんだからたまったもんじゃない。その前の廊下でさえちらちら視線受けるわ、ひそひそ噂されるわ、一日にして学校のトップに並ぶ人気者である。もちろん悪い意味で。
あとさっき廊下で話してた女子二人、さらっと髪型バカにしてたの聞こえてるからな。別にちょっと目元隠れてるくらいいいだろ。てかそもそも関係ないだろ。
まったく、告白の一つでどうしてこうも嫌な思いしなきゃいけないのか。
とはいえ、こういう浮いた扱いには慣れてる。さっさと席について音楽でも——
「あら、おはよう彩也くん」
と思った直後、席で数人の男女に囲まれていた西園が俺に目をつけるや否や、更に視線が集まるようなことを言ってくる。野次馬を退かして立ち上がり、俺の方に寄ってきた。
「おはよう、西ぞ——いっ!?」
んで、何故か思いっきり足を踏まれた。
俺の立場も知らず勝手振る舞うやつに、律儀に挨拶を返そうと思ったのに。
痛みを堪えて西園を睨み上げると、顔を近づけて小声で囁いてくる。
「あなたバカなの? 恋人が苗字呼びなんてあり得ないでしょう。わざわざ名前で呼んであげたのに、昨日の今日で嘘だとバレたらどうする気?」
「なるほど言いふらしたのはお前か西——わかった、わかったから足退けろ!」
踏み付けるだけじゃ足らず、ぐりぐりめり込ませて来やがった。
「そう、じゃあ改めて、おはよう彩也くん」
「ああ、おはよう……久遠」
この満足げな笑みときた。もし犬になっても、絶対こいつには躾けられたくない。
しかし、恋人……ねぇ。
およそ一般的な恋愛関係にある男女が何を以て親密度を上げているのかは知らない。いや、一応知ってはいるが、正しいかどうかは分からないってところか。なんせ知識を得る情報源が……なぁ。
でも要するに、バレないようにすればいい。即ち、あくまで周りに俺らがそういう関係にあると勘違いさせればいいわけだ。
「なぁ、久遠」
席に戻ろうとしていた西園……いや、ここは統一しておこう、久遠を呼び止める。
「今週末って何か予定あるか?」
「い、いえ、何もないけれど」
なんで警戒気味なんすかね……って、いきなり聞いちゃまあそうなるか。メールで明日空いてるかどうかだけ聞かれた時の感じ。先に用事教えて欲しいやつだ。
「もしよかったら家来ないか?」
言うと、一瞬にして教室内が騒ついた。なんなら久遠も驚いていた。
あーはいはい、絶対そうなると思ってたから、早く鎮まってくれ。
「まぁ? 別に無理にとは言わないけど」
けど、だ。
如何にもプライドが高そうなこのお嬢様が、まさか約束を破るはずがあるまい。
おまけにクラスメイトという名の聴衆。疑われるような発言もまた然りだ。
散々俺を軽視した罰、潔く受け入れるがいい。
「……わ、わかったわ。詳しくは後でいいかしら」
「ああ、昼休みか放課後に」
席に戻る間際、久遠から何やら痛い視線が向けられたけど、そんなの中学の頃に経験済みだ。痛くも痒くもない。
さあ、これで場は整った。週末が楽しみで夜しか寝れなさそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます