第3ラウンド「飛んで・キック・オラッ!」

 3時間が経過した。


 トキオは途中途中で休憩を取らせ、指を気遣った。

 そして、何十回目いや何百回目かのZコマンドを試した結果!


 画面内のキャラがZコマンドの攻撃を繰り出した。


「に、にーに、今のっ!」


「ああ、成功だ! 良くやったな!」


 試合に勝ったかのような勢いで、トキオは妹ユイの頭をくしゃくしゃっと撫でた。


「良し! 今の感覚を忘れずに、もう1回だっ!」


「うんっ!!」


 一度出来たことによりコツを掴んだユイは3回に1回から、2回に1回とどんどん成功率を上げていった。


「ここまで出来れば十分だな。良く頑張ったな」


「ふっ、にーにのおかげだよ。あとはアタシの気合と根性かな」


 ニヒヒッと八重歯を見せユイは笑った。


「ありがとう、にーに。これでタケシ君が出来るって自慢してたZコマンドも覚えたし、きっと勝てるぞぉ!」


 その言葉をトキオは聞き逃さなかった。


「おい、ちょっと待て!! そう言えば、お前、なんで急に格ゲーなんだ? 昔俺が誘っても断ってたクセに」


「タケシ君が勝負しようって言ってきたからだけど」


 ユイはこれまでの経緯をトキオに説明した。

 それによると、タケシ君という同級生は事ある毎にユイに突っかかり、これまでも勉強、スポーツなどあらゆる事で勝負を仕掛けては負けていた。

 そして、今回、ユイが苦手というか触ったことのない格闘ゲームに白羽の矢が立った。

 一応ハンデとして勝負は夏休み後、要するに練習期間が与えられたという事だ。


「……それ、絶対好きなヤツじゃん!!」


(まだ中一だぞ。恋愛は早い、早すぎる!! きっとそのタケシってヤツは格ゲーで勝ってユイに良いところを見せたいはず。

良し、徹底的に潰してやる!! 格ゲー世界ランク10位の俺がみっちり鍛えれば、その辺の中学生なんて敵じゃないくらいに妹を仕上げてみせる!)


「ユイ、俺が勝つ方法を教えてやる。格ゲーはキャラ性能が違うから強キャラ、弱キャラがある。強キャラを使えば、それだけで勝ちやすくなるんだ。

 で、俺のオススメはこのキャラ、飛んで、キックして、最後に「オラッ!」って言って出すパンチをするだけで勝てる! もう少し細かくあるが、それはこの夏休みで詰めて行こう。いいか、やるからには絶対勝つぞっ!!」


 こうしてトキオの短い夏は、妹へ悪い虫を寄せ付けない為の格ゲー講座で終わりを迎えた。

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Zが押せなくて タカナシ @takanashi30

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