第2ラウンド「右・下・右斜め下」

 ユイはトキオの部屋へ荷物を置くとゲームソフト取りに部屋へと戻った。

 再びトキオの部屋へ戻るとゲーム機の準備はすでに万端だった。

 

「普通のコントローラーでいいよな?」


 トキオは桃色ピンクのゲームパットコントローラーを手渡す。


「これ以外にコントローラーがあるのか?」


「ああ、俺はいつもこっちだから」


 トキオの前にはゲームセンターにあるようなスティックのついたコントローラーが鎮座している。


「で、それが教えてほしい格ゲーね」


 ユイの手にあるゲームは一目で判る程の有名作。少し前のゲームで発売当初に一通りやり尽くしていたトキオは、教えられるゲームであった事に少なからず安堵した。


「さてと、それじゃ、何を教えてほしいんだ? 4割ライフを削るコンボか? それとも初心者狩り用のハメ技か?」


 トキオの問いかけに、ユイは胸を張って答えた。


「Zよ!!」


「Z? Zってリバーサル技コマンドによく当てはめられるZか?」


「りばーさる?」


「えっと、起き上がり無敵技かな。昇竜拳とかが代表だな」


「たぶん、それ!」


 妹の格ゲーレベルが著しく低いことを悟ったトキオは、温かい目を向けた。


「ともかく試しにやってみろ。ついでにZコマンドは、1Pなら、十字キーを右・下・右斜め下に押すんだぞ」


「うん、わかった!!」


 トレーニングモードで、キャラを選ばせ開始するが、画面内のキャラは右へ左へ動き、しゃがんで、立って、パンチを繰り出す。


「……出来ないんだけど」


 ユイはジト目でトキオを睨みつける。


「お前って不器用だったんだな」


 トキオはコントローラーを受け取ると、ゆっくりと十字キーを押し、簡単にZを成功させる。


「なるほど、ゆっくりでもいいんだなっ! ありがとう。にーに!」


「お礼はできてから言え」


 ユイはトキオと同じようにやったはずだが、先程と同じ様な動きをして終わった。


「ううううっ~~」


「出来ないからって睨むな、睨むな! そんな不器用なお前に必勝法を授けよう」


「必勝法? そんなのがあるのか! 流石にーに!」


「このコマンドは走りながら、下・右斜め・右に押すんだ」


 ドタバタ、ドタバタッ!


 画面のキャラは、遠距離技を放つ。


「うん、ごめん、これは俺が悪かったわ。まさかリアルで走るとは思わなかった」


 トキオは両手で顔を覆った。


「道着にランニングは似合っていたけどさぁ。ゲーム内での話だから、一回座れ。まぁ、だけど、下・右斜め・右は出来るようだから、これはなんとかなるぞっ! 頑張れ!!」


 その言葉に目を輝かせて、「おうっ!!」とユイは答えた。


「…………」


 ゲームキャラは思いっきり走ると、なぜか何度やってもジャンプする。


「なんで、上を押すんだよ!!」


「アタシだって押してるつもりないよぉ~!!」


「落ち着いてゆっくり確かにやっていくんだ。あとは慣れるまで練習あるのみだな」


 練習開始30分。


「全然できないよ~」


りきんでやりすぎると指が皮むけするが、ユイは大丈夫か? あまり強く持ちすぎるなよ」


 少し休憩しろと言わんばかりに、トキオはジュースを差し出す。


「ありがと。ゲームってすごい大変なんだね。汗もかいてきたし、スポーツって言われる訳だね!!」


「頭も使うし、1フレーム、0.015秒を競う勝負だからな。指の動きと反射神経の速度だけならスポーツの中でもトップクラスなんじゃないか? 他のスポーツ詳しく知らんけど」


「むむむっ、なるほど、甘くみていたアタシが悪かったようだ!!」


 ユイはバッと立ち上がると、左の親指を高く掲げた。


「この指が朽ちようとも、絶対に『Z』をやってやる!! 皮むけがなんだっ!!」


「いや、熱くなっているとこ悪いが、ケガの治療とかで時間取られるから、そういう覚悟は全くいらん」


「…………」


「泣きそうな顔でこっち見るなっ! まぁ、その、意気込みだけは良いと思うぞ」


「確かにケガは良くないよな。うん。スポーツでもケガしたら練習できなくなるしな!」


 ユイは気合だけ入れ直し、再びコントローラーを握った。

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