第9話 春色の終わり2
放課後、僕は窓辺で景色を眺めながら、考え事をしていた。
佐倉さんから言われた、行く場所を決める事もそうだけど、それは別にまだ先の話でいいと思う。正確な日程でさえ、定かではないから。
それよりも、今は景色を撮りに行きたい。
この学校周辺の景色を取りに行くのも悪くはないが、悠人から送られてきた絵とあまり変わらない内容になってしまう。
今回は春のことを目的にしているから、行くとしたら公共施設辺りになる。そういう所には大体桜の木が植えられているもので、それは多分日本を代表する国花だから。
「さて、どこへ行くか……」
「お出かけするんですか?」
「まぁ、ね。ほら、そろそろ春が終わりそうだろ?それでまだ春らしい景色を撮れてないから桜の木を撮ろうかと」
僕が学校の周りに生えている桜に指をさす。
白石は目で追い、納得したのか頷く。
「いいですね、お花見みたいで」
「その時期はもう過ぎたけど、そういう感じかも。やっぱり行くなら公園とかかな」
「そうですね、そこなら確実かと。でも、そこそこ広い公園じゃないと見られないかもしれません」
「僕の家の近くは全部家の土地一つ分とそこまで変わらない広さの公園しかないから。電車使って遠いところ行く……か」
「なら、私も行きます」
「どう、して?」
それじゃあまるで、デートみたいじゃないか。
「それじゃあまるで、デートみたいじゃないか。とか思ってないですよね?」
「お、思ってないって」
「私は実はお花見、したことないんで」
「でも、公園ってそんなに人が集まるってものじゃ……」
「お花見の場合は別です。ニュースでよく見ませんか?陣地取りに来たみたいな」
「言われるとそうかもしれない」
「それで、私と一緒に行きませんか?」
「主体が取られてるんだけど……まぁ、いいや」
「明後日休みなので、その時にお願いします」
「わかった、その間に決めておく」
僕は急いでマップアプリを開き、公園を検索した。
───
有事に公園にたどり着いた。
無事ではない有事だ。
白石の特殊体質は数人程度の音は我慢出来るが、数十人にもなると耐えきれない事が今日わかった。
僕は予定通り、駅に向かおうと玄関を出ていったら『駅まで行けないので来てください』と短文のメッセージと現在地が送られてきた。
そこに向かうと青ざめた白石の姿があり、駅前の公園のベンチで座っていた。
「おい、大丈夫か?」
白石の前に屈んで、顔を覗き込んで聞いた。
「なんとか……っ」
「無理すんな。水筒持ってきてるけど、飲むか?」
こくりと頷いたので、自分の鞄から水筒を取り出す。今日の朝は少し暑いと感じたから中身は冷たい麦茶にした。
白石が少し口にしたのを見て、隣に座り、背中をさすった。
「本当に大丈夫か?今日はやめとくか?」
「識音くんが来てくれたので、少し落ち着きました。ごめんなさい、私の我儘でこんな事に……」
「そんなのはいい。僕がちゃんと考えて動かなかったのが悪いから」
「少し、くっついてもいいですか」
「僕でいいならどうぞ」
僕の肩にもたれかかるように白石がくっついた。
周りの視線が痛かったが、そんなもの気にしてはいられない。
「今日は行くのやめておこうか」
「えっ、でも」
「こんなに弱っているのに無理はさせられない。性質は違っても、どのくらいキツいかはわかる」
「……わかりました。でも、本当にごめんなさい」
「いいって。確かに、僕は桜の景色を撮りたかったけど桜並木を撮りたかったわけじゃないし、それにここに一本ある」
今まで誰とも、自分が見た景色を一緒に捉える事は出来なかったけど、今日はそれが出来ただけで充分だ。
「花びらが散っても桜は綺麗ですね」
「芽吹きそうな葉っぱも可愛らしくていいんだよな」
「写真撮りませんか?」
「撮りたいけど一つお願いがある」
「今日は私の失態で予定がダメになったので私に出来る範囲ならいいですよ」
「それなら、あの桜の木の前で座って欲しい」
「それだけ、ですか?」
「それだけでいい。僕はまだ誰かと一緒景色を撮れたことがないから」
「わかりました。これで、いいですか?」
白石は桜の木の前で、しかも、まだはかれていない花びらの上に座った。
「それ、服が汚れないか」
「服は汚れるものですので、問題ありません。それより早く撮ってください」
「あ、ああ……」
鞄から一眼レフを取り出して一枚、スマホでも一枚撮った。
「上手く取れましたか?」
「そこそこかな。でも、白石さんがいる部分がアクセント効いてていいと思う」
「座ったかいがあって良かったです」
「そうだ、スマホでも撮ったから送るよ」
白石のメッセージ欄に撮った写真を送信した。
「撮られた写真を見るのは少し恥ずかしいですね」
「いい経験になった?」
「はい、とても。ありがとうございます」
「こちらこそ。どういたしまして」
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