第6話 険しい色

「チューニングが合わないギターな音が聞こえるんですけど、どうしたんですか?」


「何その音。プーン、ペーンみたいな音って事?」


「大体合ってますよ。それで何か悩み事ですか?」


「いや、そろそろテストの時間だから覚えられてるかな……って」


「英語の小テストでしたね。今焦っても仕方ないので、やれることをやるだけだと思います」


 確かにそうなんだけど。頭の中でそれは分かっていても、緊張は止まらない。


「そう言う白石さんの方はどうなんだ?」


「私はもう予習しておこうと思ったら忘れたので諦めました!」


「それドヤ顔して言うことじゃなくない?」


つい顔が引きつってしまう。


「まぁ、英単語のスペルを書くわけじゃないのでなんとかなりますよ、きっと」


「うわぁ……一年生の時と同じこと言ってる。痛い目にあっても知らないから」


 ────

 無事、小テストを終えて、放課後になって返された。


 白石の様子を見る限り、そこまでコケた感じの結果ではなかったらしい。


 勉強せずにそこそこの成績を取れるのは羨ましい。


「よくそんな調子でテストをいい感じに出来るね」


「周りからちょくちょく言われるけどこう見えても私は勉強嫌いじゃないんだよ?やった事ないものに触れられるし」


「嫌いとかじゃなくてさ、学校行ったり行かなかったりじゃん」


「休んだ分は佐倉さんから教えてもらってます。頼っていいって言われたからダメ元で聞いてみたら教えてくれたし、博識だった」


「えぇ……佐倉姉、僕の時はそんな事してくれなかったんだけど」


「ちゃんと聞かなかったからじゃないんでしょうか?人は言われないと気づかないものです」


「確かに。僕達が言われなくても気づきすぎてるのか、気をつけないと」


 突然白石がフッと笑った。


「なんだ、いきなり笑って」


「いえ、識音くんって意外と物事をちゃんと考えてるんだなって」


「それ僕が惚けてるって言いたいのか?」


「オブラートに包んだつもりだったんですが……物事を難しく考えていると思ったんです」


 腕を組んで考えてみるが、僕としてはそんなつもりなく、思い当たる節が見つからない。


「そこ、そこですよ」


「えっ」


「今思い当たる節があるか探ってましたよね?そういう所です」


「えっ、だって、言われたら誰だって気になるものだろ?」


「別に『そうだっけ?』とか『どの辺がそうだった?教えて』と自分で考えるんじゃなくて人に聞けばいいのにと」


「あ、なるほど。そういうことか」


 白石が言いたいのは、「一人で抱え込みすぎだ」って事だ。


「この特殊体質を知ってるのは僕の友達一人と佐倉姉と君だけだし、前はこれを一人で何とかしてたからそのせいかもしれない」


「それなら、もう少し頼ってくれてもいいんですよ?」


「つまり、ヤキモチを妬いていると?」


「どうしてそうなるんですか。違います、勉強の事で困ってるんじゃないんですか?」


「な、なんでそれを……」


「だって、英語の時間に限ってダメになったり、佐倉さんからは『識音くん、特殊体質のせいでちゃんと授業受けられてなさそうだから心配なんだけどな〜』って言ってました」


「それなら何故本人に言わないんだ」


「佐倉さんとしては個人の意志を尊重したいんじゃないんでしょうか。私達が初めて図書室で話し合った時、無闇な干渉はしてませんでしたし」


 佐倉姉は何考えているのかイマイチ分からなかったけど、ちゃんと僕の事を考えてくれていたんだ。


「ん?でも、それってさ、佐倉姉に聞いた方が早くない?博識なんだろ?」


「あっ……そうですけど」


 ニヤついていた顔がしゅんとなる。


「そのあからさまなガッカリされるとこっちが傷つくって……。分かった、ちゃんと頼るから教えて」


「そうこなくっちゃです!」


 ロッカーからノートを取り出して、僕の机の上に広げる。


「どうします?どれからやります?」


「まぁ、とりあえず英語からやる」


「分かりました!この白石先生に任せなさい」


「んじゃあ──」


 これはしばらく付き合わないと帰してもらえなさそうだ。


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