すすぬりカラス
深恵 遊子
ぶん・ふかえ ゆうし
さらさらと かわの ながれる もりの ちいさな きの うえに 1わの カラスが すんでいました。
カラスは きれいなものが だいすきで いえに かざった たからものを ながめては いつも こう つぶやいていました。
「どうして ぼくは まっくろなんだろう」
ちかくに すんでいる カワセミは ラピスラズリみたいに きれいな つばさを いつも カラスに じまんします。
かわべで たまに あそんでいる メジロの 2わの きょうだいは ペリドットみたいに かがやいている その うもうを だいじそうに ていれしあいます。
いつも なにかを さがしている ヤマバト おやこの はねは アンダルサイトの もようを えがいていて はばたく たびに いろんな かたちを みせています。
「それに くらべて ぼくの つばさは すすを ぬりつけた みたいで ちっとも きれいじゃない」
だから カラスは よるに なると じぶんに ついている すすぬりの つばさを だきしめて しくしく ないて ねむるのです。
そんな あるひのこと あかい めをした 1わの カラスが あそびに きました。
その カラスは からだの あちこちが しろく うすよごれていて どうにも きたならしい すがたを しています。
ねぼけまなこを こすりながら カラスは その きみょうな カラスを でむかえました。
きのうの よるは ひどい あらし。
かみなりが ごうごう なりひびいて となりのやまからは ひるみたいに あかるい ひかりが てらしてくるのです。
このよる ばかりは こわいやら まぶしいやらで どうにも こうにも ねむれませんでした。
「ごめんください」
きみょうな カラスは おそるおそる というように いいます。
「わたしは となりやまの カラスです。いちにちだけ ここに おいては くれませんか?」
「いいや、だめだ」
カラスは にべなく ことわります。
「どうしてですか?」
「そんなに からだが よごれていたら ぼくの たからものが よごれてしまう。その しろい よごれを おとして きてよ」
きみょうな カラスは いちどだけ こまったかおを して、
「わかりました」
と、うなずき とんでいきます。
それから しばらくして きみょうな カラスは もどってきました。
「これなら どうでしょうか?」
カラスは けわしい かおを して くびを よこに ふります。
「だめだ、だめだ。まだまだ しろい よごれが のこっている。ちゃんと からだを あらうんだ。ごしごしごしと あらうんだ」
それを きいた きみょうな カラスはふたたび とびさって いきました。
にど、さんどと カラスと きみょうな カラスは そんなやりとりを つづけました。
どこそこに しろい よごれが ついている。くびの うしろも しっかり おとせ。あたまの うえが まっしろだ。もっと ていねいに あらうんだ。
そんな やりとりに つかれてきたのか カラスは きみょうな カラスに いいました。
「こんどは ぼくが あらってやる」
「それは、ちょっと こまります」
「なにが こまると いうんだよ。せっかく ぼくが あらって あげると いっているのに」
カラスが きみょうな カラスに つめよると きみょうな カラスは つばさを はためかせ とんで にげてしまいます。
カラスは きみょうな カラスの これまた きみょうな その こうどうに くびを かしげました。
たいそう ふしぎに おもった カラスは きみょうな カラスを おいかける ことに しました。
おいかけた さきに あったのは くろく やけこげた となりやま でした。
そこでは きみょうな カラスが くろい くろい すすを こすりつけて からだを よごして いたのです。じめんの うえで ひっくりかえったり、まっくろく やけた きのえだを くちばしで くわえて こまかい ところまで こすっていきます。
「きみは なにを しているんだい?」
きみょうな カラスは すこし びっくりした こえを だして カラスの ほうを ふりむきます。
「もえた わたしの いえを こすりつけて カラスらしく くろく しています」
じつのところ となりやまは きのう いくつも なっていた こわい こわい かみなりが いちばん たかい きの てっぺんに ズドンと ひとつ おちていたのです。
その きから みずを こぼした ように まっかな ほのおが ひろがって どうぶつたちの すんでいる いえは みんな みんな やけてしまっていました。
「どうして また そんなことを?」
カラスが そう きみょうな カラスに きくと きみょうな カラスは かなしそうな かおを します。
「カラスの なかまは みんな わたしが へんだと からかいます。わたしは あなたにも からかわれることが いやでした」
それを きいた カラスは いいます。
「ほかの とりたちに くらべたら カラス なんて みんな へんな やつだ。ぼくは どんなに へんでも きみを からかうことは ないね」
「そんなことは ありません。わたしの ほんとうの すがたを みれば きっと あなたも いやなことを いうこと でしょう」
カラスは すこし ムッとして きみょうな カラスに いいます。
「じゃあ、その ほんとうの すがたを ぼくに みせてよ。もし ぼくが きみに いやな ことを いったなら からだじゅうの はねを きみに ぬかれてもいい」
「そんなことは しませんよ!」
びっくりした ように きみょうな カラスは そう いって、「そこまで いうなら」と カラスと いっしょに カラスの いえの ちかくの かわへと とびたち ました。
バシャ、バシャ。
かわに 2ひきの カラスは はいっていって みずを かけあい すすを おとします。
バシャ、バシャ。
かわの みずも よごれなく なってきたころ カラスは だまって かわぎしの いわの うえへと あがりました。
「やっぱり へんだ、と おもいますよね」
そう ふあんそうに こえを かけられて カラスは 「ぜんぜん」と くびを ふります。
「きっと きみに 『へんだ』と いった やつらが へん なんだ。なんせ きみは こんなにも きれいなんだから」
かわのなか キラキラと すいしょうの ように きらめいて ただ 1わ シルクみたいに まっしろな つばさを もった カラスが くろい カラスを みあげていました。
くろい カラスは いえへ かえろうと とびたちます。すこし おくれて しろい カラスも はばたくのでした。
かわもに いちまい うつくしい しろい はねを のこして。
すすぬりカラス 深恵 遊子 @toubun76
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