「どーでもいい」
一夏と付き合って、気づけば二ヶ月が経過した。最長記録ではないが、長く続いている部類だ。私にとっても、おそらく一夏にとっても。お互い、交際が長続きしない性質だから。
今も私は、恋愛的な意味でこの女を好きではない。ただ、当初は確かに存在したはずの同族嫌悪はいつの間にか霧散して、私は今までの恋人たちと同じようにこの女が隣りにいる状況を受け入れ始めていた。
一夏との距離が縮まるのに比例して、ゆなとの距離は開いていく。いくつか取っている同じ講義で顔くらいはみかけるし、後姿を目で追ってしまう癖は抜けきらない。時たま視線が合うこともあるけれど、会釈のひとつもせずに私達はふらっと目をそらす。
お互い、存在そのものは過剰に意識している。それでも、交わす言葉を持たないことを知っているから近寄るつもりにはなれない。
そんなモヤモヤを抱えている私を見透かしたようなタイミングで、一夏は私を抱く。私もモヤモヤを振り払いたくて、積極的にその快感を受け入れていた。相手が同類だから、私の都合に付き合わせているという自己嫌悪も薄くて、気持ちが軽い。自分の心を切り刻まずにセックスできるのが、新鮮だった。
「私達、相性が良いと思わない?」
散々よがらされてくたくたの私がぼんやりとベッドに仰向けになっていると、隣に腰掛けた一夏が軽薄に囁く。殺風景な一夏の部屋の、やたら大きくてふかふかのベッドに転がるのも慣れたものだ。
「そーね。癪だけど」
「一夏は、私が他の子を抱いたら怒る?」
「怒って欲しいの?」
「どっちでもいい」
「じゃあどーでもいい」
「そういうところが、相性がいいと思わない?」
「そうかも」
一夏は多分、恋多き女なんだろう。誠実さには欠けるが、浮気性という点以外では案外まともだ。ちゃんと相手を尊重するし、本当に嫌がることは強要しないし、恋人の傷ついた心を癒やすことを躊躇わない。踏み込んだり、線を引いたり、その塩梅が巧みで、私の数倍人付き合いに器用さを発揮している。彼女に粉をかけられた娘たちが本気になるのも、わかる気がした。
反面、ひとつの関係だけに拘束されるのを嫌うから、関係は長続きしない。相手が本気になったのを見極めて、本格的にこじれる前にさっさと関係を清算してしまう。その点、私は根本的な部分で一夏を好きじゃないから、お互いに心地よい場所から必要以上に踏み込まない。
「でも」
「でも?」
「多分、ずっと一緒にはいないよね」
「……そうね」
一夏は微笑んで、私の乾いた言葉に同意した。
確かに私達は相性がいい。だけど、それは相性がいいだけだ。居心地がよくて、気持ちは楽だけど、それだけ。
私も一夏も、心の底から互いを望むことなんて、一生無いだろうから。
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