誰が悲劇
私は裕福な家に生まれた。貧困が続く社会では私たちのような者は恨まれていた。父母ともに毎日夜遅くまで働いていたので、幼い頃から「ばあや」に面倒を見てもらっていたのだが、彼女は恐ろしい。親が見ていないところで私を酷く叱り、最悪の場合は私を部屋に閉じ込める。部屋は外から鍵がかかっているので絶対に出られない。そうして10時間もすればようやく出してもらえる。彼女は怒りの矛先を私に向け、気晴らしに私を閉じ込めることもあった。彼女のいる世界は私にとってまさに「悲劇」だ。
そんなある日のこと街で少年サムと出会う。私は彼に多くのことを打ち明けた。もちろんばあやのことも。彼は同情してくれた。
この先彼のような人には出会えないと思っていた。
サムと私の関係をばあやに知られた。
「まぁなんと言うことですかお嬢様。あんな汚らわしいハナタレ小僧と遊ぶだなんて。すぐにあの部屋へ行きなさい。」そう言われたが彼のことを悪く言ったことが許せず、「もう、いやだ!」と言ってばあやを突き飛ばした。彼女が床に倒れたのと同時に、右ポケットから鍵が出てきた。怒りが頂点に達した私は、ついに復讐を決断した。「返しなさい」
と彼女は言うが返すわけがない。私は足の遅いばあやより先に部屋を出て鍵をかけた。
人生で最高の瞬間だった。
すぐにサムのところへ行ってこのことを伝えたかった。私は走って彼のところへ行ったが彼はいなかった。近所のおじいさんが「あいつは幼くして栄養失調で死んだのさ」と言っていた。「栄養失調」の意味はわからなかったが「死んだ」の意味はわかった。そのとき私の何かがプツンと切れた。心のよりどころを失った。泣き崩れた。
家に帰る途中で燃え上がる家が見えたが、絶望の淵にいた私にはあれが自分の家だとは判断できなかった。後で父から聞いたのだが、
私たちの裕福な暮らしに不満を抱いていた町の男の一人が火を放ったらしい。
両親は家をなくして絶望していたのだが、
私の心はしだいに晴れていった。
さて「誰が悲劇」
みいつけた 神田 透子 @ToukoKandaessayist
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