得体の知れない、奇妙な、しかし真摯なSF作品

  • ★★★ Excellent!!!

近未来都市の合議制の会議によって「ノケモノ」の烙印を押され、人々から排除された、獅子の尻尾を持つ少年レオが、少女カナコと生活しながら、街に現れる「バケモノ」と呼ばれる存在と戦うというお話。

なかなか解釈しづらいこの作品を一言で表すとやはり「怪作」ということになるのでしょうが、この語彙を形容として積極的に用いるのは相応しくないように思えます。なぜかと言えば、怪作という一言に収斂させることで、小説が持つ独特の不気味さや歪さが零れ落ちてしまう気がするからです。

文章や設定はシンプルなのですが、文脈的な脱臼を狙っているような唐突でナンセンスな会話、繰り返しや改行のタイミングが独特な地の文、礼儀正しくも少年らしさを残すレオ君のキャラクター性、ノケモノ、ケモノといった用語使いなどの諸々によって、かなり特異な世界が描かれており、お世辞にも可読性は高くありません。

しかし、その不可解さに論理性をもって対処しようと試みる脳の運動と、作品全体に通底する「なにかを蔑ろにすることに対する行為への実直な怒りと正義への眼差し」がエネルギーとなってこちらに伝わってくるので、どうにも読んでしまうという、外れ値の読書体験が楽しめる作品だと思います。自分の守備範囲だと、ハーラン・エリスンや、ニール・スティーヴンスンといった、ドライブ感のある尖った海外SFを読む感覚に似ているかも。全貌を把握するのにもう少し時間がかかりそうです。

口当たりの良いレディメイドの作品に慣れている人にとっては咀嚼が難しく、万人向けの作品ではないと思いますが、早々に見切れない読書を楽しみたい人におすすめです。

レビュワー

このレビューの作品

「ノケモノ会議」