演目その6 陰暴論
ツクテンテン、テンテン・トンテン、チャカテンテン♪
えー、毎度バカバカしい
ちょっと前から、ワクチンについての「陰暴論」なんてのが話題になっていますね。やれ、製薬会社が儲けるための自作自演だの、遺伝子が変異するだの、5Gでネットに接続するだの、野菜が逃げるだの……。
SNSなんかで拡散して、ワクチン陰謀論グループみたいなのが出来上がっちゃって、お互いに洗脳しあっちゃってるからタチが悪い。
しかも、結構、年配の人がそういうのにひっかかっちゃってるらしいですね。
昭和の時代は、親が子供に
「テレビばっかりみていると頭が馬鹿になるわよ! 勉強しなさいッ!」
なぁんてたしなめていたのが、令和になると、子供が年老いた親に
「ネット記事ばかり見てると頭が馬鹿になるッ! SNSはたいがいにしなさい!」
なんて注意するようになって、それでも令和の老親は昭和の子供みたいに素直に「はーい」なんて言いませんからね、逆に「お前がわかっていなんだ!」なんて言い出して、なかなか困ったことになっているようでございます。
えー、ここにもネットのやりとりで不安になっちゃったご老人がおりまして――
「ねぇ、熊さん」
「あら、ご隠居、どうしました?」
「あたしゃねぇ、心配になっちゃって。いやね、この前ワクチンを打ったでしょう? そうしたら、ネットで『そんな危険なモノを打ったのか。あんたこれから健康被害が出るぞ』なんて言われて……」
「あぁー! そいつぁ、今話題の『陰謀論者』だな」
「『陰謀論者』?」
「ええ、ネットで悪い噂――つまり『陰謀論』をまき散らして広める、悪い
「『陰謀論』……陰謀……? ああ、あの長い棒の下をくぐるやつ」
「いや、ご隠居、それは『リンボー』」
「太ったら、あちこちにつく奴だ」
「それ
「両目のことかい?」
「
「麻雀をやるときに使う……」
「それは
「あー、囲碁のタイトルだ」
「惜しい!
っていうか、ワザと間違ってない?
「この前三丁目の山田さんのところで窃盗被害にあったって……」
「それは
「大したものは取られなかったけど、台所にあったお野菜を盗られたって」
「
「あと夕飯用に買っておいた白身のおいしい魚も」
「ホウボウ」
「で、慌てちゃったから、間違って110でなく119を……」
「
「で、すぐに来てくれってお願いして」
「
「現場検証をすると犯人の遺留品に、縮れた毛が見つかって」
「
「その犯人に仲間がいたって」
「
「で、DNA鑑定で犯人がわかって警察が必死で取り押さえようとして両者とも必死の」
「
「熊さん、短気だねぇ。年寄りの相手をするときは、もっと我慢しなくちゃ」
「
はい、お後がよろしいようで。
えー、ワクチン接種も進みまして、集団免疫も獲得できたようでね、生活のほうもだんだんと通常運転に戻ってまいりましてみなさん、コロナ以前の生活を段々に取り戻しつつあるようでございます。
コロナによっていろいろなことがありましたが、大切なのは、苦しい時に社会を支えてくれる人たちへの感謝と、他の人への配慮や思いやりの心ですね。苦しい時にこそ、「陰暴だ!」ではなく、「希望」を持ちたいものです。
では。ここいらへんで失礼をば。
ツクテンテン、テンテン・トンテン、チャカテンテン……
創作落語~コロナ禍 黒井真(くろいまこと) @kakuyomist
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