我が背子と 二人し居れば
鋭い目の男
「晴明、霊山を管理する家があるだろう?」
いつかの京都。2人の男が、何やら話をしていた。
「ああ! あの9つの家だね!」
この国には、霊山を管理する家があった。難しい管理を行う家々は、権力者にとっても民衆にとっても重要で、様々な面で優遇されていた。彼らは、それだけの事をしているのだ。
「そうだ。私は、もう1つ家を作ろうと思う」
鋭い目の男の方が、へらへらと笑う男に言う。
しかしその内容は、決して軽いものでは無い。霊山の管理者とは、作ろうとして作れるものでは無いからだ。
管理は家で行わねばならない。
家の創始者は、一代で終わるような能力者ではならない。
どの代の陰陽師も霊山を相手取る実力が無ければならない。
そもそも山との相性が良い血筋でなくてはならない。
他にも、様々な要素を満たさなければ、あの9つの家のような管理者は作れない。
「へえ! 京都にかい?」
しかし、男は友人に軽い返事をした。男は、目の前の友人が作ると言うのなら作るのだろう、としか思わなかった。
男は本物の天才であったが、かなりズレているところがあった。
「そこで、だな」
「どうしたんだい? 花見に行くかい?」
「話を聞け!.......そうではなくてだな。お前と、私の子供達に、その家を任せようと思うのだ」
「へえ! .......ん?」
「ふはははは! やっとお前の驚く顔が見られたわ!」
「道満、残念だけどそれは出来ないよ。僕お嫁さんいないし」
「早くもらってこい」
「困ったなあ」
「私は! お前となら! この京都も! この先千年だって! 守れると思ってるんだ!」
話の内容の重さに反し、2人の間にある空気はいつも通りだった。なので、耳を真っ赤に染めて怒鳴る友人がおかしくて、男はつい返事をしてしまった。
「じゃあ、僕にお嫁さんができて、子供が出来たら。千年続く家を作ろうか!」
酒を飲んだときですら見せない友人の笑顔を見て、男は少し本気で嫁を探す気になっていた。
しかし。
「道満」
「晴明!! お前今までどこいってたんだ! お前の仕事だって私が.......どうした?」
いつもと違う男の様子に、友人が気づかないはずがなかった。
「悪いね! お嫁さんの話だけど、なしにしてくれ!」
「.......何があった?」
鋭い目の友人は、これから9つの家を訪ねて霊山の管理を勉強し、それらの家を凌駕するような管理者を作る準備をしようとしているところだった。それにも関わらず、目の前のズレた男は唐突に話をなかったことにしようとしている。
「僕は自由に生きたいんだ! 桜だって自由に見たいのさ!」
「.......何があったと聞いている」
「.......少し、拾い食いをしてね。死ねなくなった」
「.......は?」
「はははぁ! まさか人魚があんなに美味しそうなんてね!」
「.......は?」
「煮物に焼き魚に、美味しく頂いてしまったよ! はははぁ!」
「.......この、バカーーー!!!」
思いっきり頬を殴って、彼は男の前から消えた。
それから、何十年と経っても、男は若いまま、気ままに桜を見ていた。
そして、年老いた友人と再会して。
「おい、晴明! 勝負だ! お前が来なかったら、私の勝ちだ!」
「はははぁ! 今回も僕の勝ちだね!」
「勝ってみろよ! 晴明!」
千年続く勝負が始まる。
しかし、友人が男に会いに来るまでの、何十年の間。
鋭い目の友人は、どこで何を、していたのだろうか。
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