敵対
「五条治は、失敗だった」
五条当主の胸ぐらを掴みあげた。
「てめぇ.......!! 自分の子供に!! なんて事言ってんだ!!」
五条当主の変化のない真っ黒な瞳を睨みつける。自分の奥歯がぎりっと悲鳴をあげ、胸ぐらを掴んでいる手は激情でぶるぶる震えていた。
「ハルに謝れ!! 許してもらえなくても、謝れ!! ずっと、ハルに、お前、ハル、ハルに.......!」
あぁ、ダメだ馬鹿野郎。だからお前はダメなんだ。いつも無駄に感情的な癖に、いざって時に振り切れる。なんにも出来ず、ただ泣いてるだけ。約立たずの、クズだ。こんなの、存在価値がない。
「.......謝れよ.......!!」
五条当主から手を離して、片手で額を握りながらしゃがみこんだ。五条当主に見下ろされながら、止まらない涙を隠しながら、ぐちゃぐちゃな頭の中がぐちゃぐちゃなまま口を通って外に出ていく。
「なんなんだよ、1番じゃなきゃ、全部失敗かよ、バカだろ、ちゃんと見ろよ、ちゃんと、分かれよ、なんで.......」
1度大きく息を吸って、吐いた。震える吐息が消える前に、一気に立ち上がる。
ハルが目を丸くしていた。勝博さんはピクリとも動かない。花田さんは歯を食いしばってこちらを見ていた。
「いきなり割り込んですみませんでした」
頭は下げない。何の変化もない五条当主の顔を見つめて。
「個人的に、少しカッとなりました。そして、個人的に、俺はあなたを許せない」
「そうか」
「失礼します。お騒がせしました」
心配そうなハルに手を振って、慌てて着いてきた花田さんと廊下を進む。しばらくして、どんどん冷静になってきた。やばい。俺終わった。
「俺は唐突に人に手を上げるクズだ.......」
床に両手をついて泣いた。花田さんごめんなさい。隊長に戻る前に暴力沙汰でクビです。
「.......少し、意外でした。隊長があそこまで反応なさるとは」
「トラウマコンプレックス直撃だったんですぅ.......でも1番嫌だったのはハルなのに、俺が怒ってどうすんだって話ですよね.......未熟でごめんなさい.......」
というか今からハルも五条当主もいる部屋に行かなければならないのか。地獄じゃないか。
「あー.......とりあえず行くか.......」
這うようにして集合場所の部屋に入った。笑顔でこちらを振り向いた先輩と優止はそのまま固まり、詩太さんはチラチラと俺を見ている。その他は嫌そうな顔をするか呆れるか。五条当主はこちらを見もしなかった。もうやだ泣きそう。
「おい、これから隊長に戻んだからシャキッとしとけや」
「すみません.......」
なんとか自分の席にたどり着き、白い人にクビを宣言されるのを待つ。これが本当の公開処刑か。
「揃ったか」
全員ざっと頭を下げた。
ふっと現れた白い人は、部屋中を見回して。
じっと、俺を見下ろしていた。
さあさあ始まりました和臣くんの公開処刑。完全に個人的理由で他人の親子の問題に首を突っ込んで手を出した挙句、ハルになんの気遣いもしなかったクソ野郎を袋叩きにする命令はまだですか。そのクズをボコボコにするの俺も参加していいですか。
「管理部、七条和臣」
罪人、七条和臣。
「ただ今を持って」
ただ今を持って。
「特別隊隊長へ任命する」
死刑。
「はっ!」
さあ来い。殺せよ。全員で俺を殺せよ! 塵も残すんじゃねぇぞ!!
「次いで、昨今世間で広がる不安に伴い増加している怪異について。五条、引き続き指揮をとれ」
「はっ」
「では」
ざっと頭を下げた。
「解散」
ざわざわと騒がしい。あれ、おかしいな。俺は死刑ではないのか。まさか許されたのか。
「おい、テレビ局に言って放送をやめさせろ! 怯えた一般人に夜中うろつかれては、人手がいくらあっても足らん!」
「これでも放送は減らしてるんですがね.......。今どき、個人で動画を共有する事が多いですから。さすがに止められません」
「もっと無所属の術者に仕事を振ってもいいのでは? 我々や管理部だけでは既に手に負えませんよ」
「それでも足らん。大体、無所属の術者に大した仕事は任せられん」
「今月の割り振り、俺らの隊だけ異常な件数だぞ!! どうなってやがる!!」
どうもみんなオカルトブームの対応に忙しいみたいだ。あれ、もしかして俺のこと忘れてる? お咎めなし?
花田さんに目線で、オカルトブーム万歳、と伝えた。花田さんは微妙な顔をしていた。
「割り振りの変更は無い」
突然上がった五条当主の声に、ざわつきが静まる。
「新たに加わる特別隊には、新たな案件を割り振る。明日、指定の場所で怪異と一般人の対応に向かえ」
あれ。
「再度言う。割り振りに変更は無い。無所属への依頼は2割増やす」
五条の当主補佐に渡された資料には。
「みちるぅ、それは私にくれるって言ったでしょお? なんで和臣なのぉ?」
「適切な割り振りをしたまで」
近くにネットで話題の心霊スポットあり、一般人多しの文字と。
不気味に輝く、「人の霊多数。天狗(烏天狗、木の葉天狗)の目撃情報あり。」の文字が。
「以上。次の集まりまでに何かあれば、五条本家へ取り次げ」
五条当主が立ち上がり、部屋を出て行った。
部屋全員、八条隊長にまで同情の目を向けられた俺は。
「思いっきり報復された.......!!」
「ごめんねぇ和臣。頑張ってねぇ!」
やはりケラケラ笑う最強術者の家を、敵に回したようだった。
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