生徒

 鍵が、閉まった。


「管理部!! 総員確認!! その他の封印も確認しなさいん!! 確認したら見たものは忘れなさいん!!」


「「了解!!」」


 ばらばらと、管理部の人達が崩れ落ちた壁から封印庫へ入っていった。目の前にいるハルと零様は、鍵をしめた状態のまま動かない。


「和臣!! このバカ!!」


 駆け寄ってくる足音を聞いて。一応生きてる、と手を挙げようとして。







「「「っ!!」」」




 思い切り、地面を蹴って。



「あぁ.......!Großartig最高だわ.......!!」


 白い人に近い方から順にハル、勝博さん、俺、一条さんの順で。

 が伸ばした手から守るように。

 白い人の前に、立った。


「...............................斬る」


 一条さんが抜いた刀の峰が、金髪美少女の手を押しとどめている。

 そして、1度俺が瞬きを終えると、金髪美少女の首筋に刀を当てた血だらけの一条隊長が居た。


「だって.......!だってだってだって!こんなに、素晴らしいのよ!」


 後ろで葉月とゆかりんが目を丸くしている。

 俺は。

 ぜぇぜぇうるさい自分の呼吸に、もう周りの音が聞こえなかった。


「こんな、こんな規模で陰陽思想の利用をするなんて! 人工的に、これだけの広さの土地の主に挿げ替わるなんて!!」


「.....................................斬首の、許可を」


「あぁ.......!! 素敵.......!」


 なんでこの子が日本に。という疑問より。

 という問題が、頭を巡る。

 だが、俺のぽんこつな頭はもうそんなことも考えられないほど働くことを放棄していた。

 というか、頭だけでなく全身が働くことを放棄していた。ニートだ。


「.......七条和臣?」


 ずるっと、目の前の一条さんの背中に寄りかかった。というか、倒れたらたまたまそこに一条さんが居た。これは良かったのか悪かったのか。


「いっちー! 早く斬ってぇ! 和臣が死んじゃうよぉ!」


「.....................................零様、許可を」


「ふふふ。ねえ、その子死んじゃうわよ? あなた、毒に詳しくって?」


「いっちー!!」


 ハルの叫ぶ声が聞こえる。

 そして、動いたのは一条さんではなかった。


 勝博さんが。

 足音も立てずに近ずいた勝博さんが、ぎらりと光る小さなナイフを、金髪美少女に向かって振り下ろす。


「やめろ」


 凛とした、白い声に。金髪美少女以外全員の動きが止まる。


「五条。七条和臣を、救えるか?」


「.......」


 え、マジで。俺死ぬの。爺さんの予言当たっちゃうよ。


「そこの西の者」


「はい。ふふふ。私、これでも先生、と呼ばれているの」


「貴様は、七条和臣を救えるな?」


「もちろんよ。解毒なんて、アルケミストのお遊びだわ」


「やれ」


Großartig最高だわ!! 神のお言葉ね!.......でも」


 金髪美少女は、ぺろりとその真っ赤な舌で唇を舐めて。

 真っ赤な瞳で、不敵に笑った。


アルケミストに神はいらないわ。でも、ホワイトあなたのこともっと教えてくれたら.......ふふ、この子、助けてあげる」


 誰が教えるかばーか。そう思って、金髪美少女に向かって、べっと舌を出した。


Großartig最高だわ.......!!Großartig最高だわ Großartig最高だわ Großartig最高だわ!!」


 ぶわっと頬を染めた金髪美少女は。


「助けてあげる! ふふふ、大丈夫よ。ホワイトには手を出さないわ! きっと、ホワイトが消えればブラックも消えてしまうのでしょう?」


 この言葉を聞いていた人は。零様の前に立った4人と一条隊長だけ。こんな言葉初耳だ。でも。

 予想は、ついていた。

 知ってはいけないことなのに。



「ねぇ、あなた、助けてあげるわ。全部治して.......跡なんて残さない」


 ずいっと俺の顔をのぞき込んだ金髪美少女の首筋からは、一条隊長の刀によって真っ赤な血がだらだらと出ていた。


「だから.......私の生徒になりなさい? Mein私の、 Schüler生徒よ


「ダメっ! 和臣は、ダメぇ!」


 ハルがぎゅっと、足にしがみついている。でもねハル、そろそろ俺も限界感じてるんだ。若さじゃ超えられない壁感じてるんだ。


「.......先生! お願いします! 彼を助けてください! 対価は私にツケておいてください!」


 塀の上から、金髪美女の声がした。


「.......しょうがないわねぇ。先生は、生徒に甘いものよ」


 そして、いきなり。

 金髪美少女は、俺にぶっすりと、どこからか取り出した太い注射器を刺した。


「いっ!!」


「これで毒は無しね。ふふふ。でも、血は足りないし毒で色々壊れちゃってるし.......お持ち帰りね、これは」


 急展開過ぎる。

 そしてなんだか段々気持ち悪くなってきた。

 気分も下がってくる。どうしたよこれ。


「カズオミ。特別レッスンよ」


 すっと、その白く小さな手が俺の頬に触れる前に。


「.........................刎ねるか? 父」


「...............................待て。息子」


 一条親子が、金髪美少女の首と手首に刃を当てていた。少しでも動けば、本当に切り落とされる。


「ブラック。カズオミを殺したいの?」


「ダメぇ! 和臣はあげない! あげないのぉ!」


 ぐりぐりとハルが俺に頭をすり寄せる。葉月より熱烈じゃないかハル。どうしたんだ。


「.......まさか.......!!」


 金髪美少女は、また頬を染める。


「.......ホワイトは、替えが効くのね.......!!!」


 金髪美少女は、その桃色の頬に両手を添えて。バラ色の唇から、震える熱い吐息をこぼして。


Großartig最高だわ.......! なんて、完璧なシステム.......!!」


 気分は最悪だが、全身ニート状態から若干解放された俺は。一条さんの背中から離れて、ハルの頭を撫でながら金髪美少女と向かい合った。


「妄想激しいオタクは嫌われるぞ」


Großartig最高だわ!!! Follow me カズオミ!! 」


「誰が行くか」


 金髪美少女は、すっとコートの中からを取り出した。トカゲはおろおろと動き回って、炎まで不安定になっていた。助けて、と言っているように見える。


「Follow me、カズオミ。あなたこのままだと死んじゃうのよ、いらっしゃい」


「いや、行かないけどトカゲ返せ!」


「お願い。あなたが行くとさえ言えば、私は一条に殺されないしあなたは生きられる。ね、いらっしゃい」


「五条」


 また、白い声がかかった。


「残りはなんとかできるな」


「はい!絶対、跡なんて残さないわぁ!」


「そうか。.......一条、連れて行け。殺しはするな」


「「はっ」」


 一条さんは、刀を鞘にしまった。そして、ぽいっと一条隊長.......息子さんの方へ投げ渡した。


「...............................頼む、息子」


「...............................父は?」


「...............................走る。.......病院、まで」


 すっと、一条さんが俺を背にのせた。腕を首に回すよう引っ張られる。


「.....................................分かっ、た」


 一条隊長は、腰に一条さんの刀を差して。金髪美少女を小脇に抱えて、塀の上に立つ金髪美女も小脇に抱えて、本部の外へ消えた。


 そして。


「あっ、トカゲっ! うえっ、.......うっ、トカゲ持ってかれた!!」


「和臣ぃ、動かないのぉ! いっちー、病院! 本当に死んじゃうからぁ!」


「...............................りょ」


 ぐんっと一条さんが走り出したと共に。


「.......負傷者探して!! 第六隊、医療班動け!!」


「隊長以下の隊員は封印庫の外へ! 負傷者は運び出しなさい!」


「特別隊! 動けるなら手伝って!! 君たちの隊長は大丈夫だ!」


 詩太さんや他の人達の声を聞きながら。

 俺は眠るように意識を手放した。

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